Nikkin金融講座 金融入門(10)なぜ銀行は、こんなにも規制に縛られるのか(1)
2023.12.08 04:01
◆銀行はインフラ産業
銀行経営者は監督官庁の一挙手一投足に神経をとがらせます。昔は大蔵省、同省が財務省と金融庁に分離した後は金融庁の動静を凝視しています。官僚に対する警戒心は、他の業種からは異常に映るほどです。その理由は、銀行の行動が法令や行政指導によって縛られているからです。なぜ銀行は、国から厳しい規制を受けているのでしょうか。
金融庁の使命は、「金融システムの安定」を保つことです。国内経済に安定的に資金を融通する機能全体のことを、金融システムといいます。それを支えているのが金融機関です。特に銀行は、あらゆる経済活動の基盤である貨幣制度や決済機構の担い手です。銀行業は一つの産業ですが、他の産業に対してインフラ的なサービスを提供する役割を負っています。
銀行以外でも、インフラ産業は政府の規制を受けるのが通例です。電力、ガス、鉄道などがその代表格。これら公益事業の担い手は、独占業務などの特権を与えられている半面、安定的なサービス供給を義務付けられています。公益事業が機能不全に陥った場合、他の産業や国民生活に甚大な影響が及ぶからです。
◆新たな取り付け危機
銀行特有のリスクとして、預金流出があります。銀行は部分準備制度を採用しています。預金者から受け入れた資金のうち、預金の払い戻しに備えて保有している現金はごく一部。ほとんどは貸し出しや有価証券投資に回っており、手元にはありません。仮に預金の支払い準備金が底をつき、貸出債権や保有有価証券を急いで換金しようとすると、投げ売り価格でしか買い手がつかず、損失が発生します。
預金者が銀行窓口に殺到し、一斉に払い戻しを求めることを「取り付け騒ぎ」といいます。英語では「Bank run(バンク・ラン)」と表現します。一旦、取り付けが起こると、払い戻しに応じるための投げ売りによって損失が膨らみ、銀行は経営破綻(はたん)状態に追い込まれます。
今年3月に米国で破綻したシリコンバレー銀行では、オンライン取引で預金が流出するデジタル・バンク・ランが発生しました。同行が債券売却による損失発生を発表した後、ツイッター(現在は「X」)で経営不安が拡散され、わずか2日後に破綻しました。従来型の取り付けではカウンターに札束を積み上げて預金者を心理的に安心させる作戦が常套(じょうとう)手段でしたが、デジタル時代には新たな対策が必要です。日本でも金融取引のデジタル化は急速に進んでおり、いずれは「対岸の火事」では済まなくなるでしょう。
◆国が銀行を常時監視
銀行が抱えるもう一つのリスクは連鎖倒産です。一つの銀行がつぶれると、預金者の銀行全体に対する信認が一挙に崩壊し、健全な銀行までつぶれる懸念があります。実際、バブル経済崩壊後の金融危機では、次に危ない銀行はどこかという疑心暗鬼が広がり、破綻が相次ぎました。そうした事態を未然に防ぐために、政府は銀行の経営状態を常に監視しています。
監視方法の一つが立ち入り検査です。金融庁はいつでも強制的に検査官を送り込める権限を持っています。経営に特段の不安がない銀行に対しても、健康診断のように予防的な検査を行うことが頻繁にあります。もう一つの監視方法は、銀行との日常的な情報交換や銀行データの分析です。金融庁は、あらゆる報告を銀行に求めることが可能です。万が一、虚偽報告や不都合な情報の隠ぺいが発覚すれば、厳しい行政処分が待ち構えています。
金融の世界ではリスクとリターンは背中合わせの関係であり、金融機関はリスク管理のプロです。しかし、超低金利の環境下では、安全性の高い国債などから十分な金利収入が得られないため、リスクの高い金融商品に投資する「イールド・ハンティング」の動きが広がりました。果敢にリスクを取って収益を狙うことは金融機関の本来業務ですが、昨今の金融行政ではリスクに鈍感な銀行に対して警鐘を鳴らすことが日常業務の一つとなっています。
日本金融通信社編集局 国定直雅
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