【推薦図書】『JRは生まれ変われるか 国鉄改革の功罪』(読売新聞経済部著)
2023.12.08 04:30
【推薦者】内閣官房内閣審議官・八幡 道典氏
メディアの取材力を生かした良書
国鉄がJRとなって36年。当時、高校1年生だったので、その変わり目の記憶はある。関西育ちの私にとっては、今でこそJR西日本と、阪急や京阪といった私鉄に特段の差を感じないが、国鉄時代は漠然とだが暗い印象を抱いていた気がする。そのせいか、民営化の意義などは分からないものの、何やら良いことが行われたらしいと思っていた。
その後社会人になって郵政民営化に携わることがあり、国鉄改革について少し勉強してみたくなった。しかし調べれば事実関係こそ分からなくはないのだが、なぜ7社分割だったのか、民営化に至る背景は何だったのか、巨額の債務はなぜ生じたのか。色々と湧く疑問に対し、満足な回答にはなかなか辿(たど)り着けず、ましてや改革そのものの評価は皆目分からなかった。
本書は、豊富な資料の解析や多くの当事者への取材やインタビューなどにより、そうした疑問に答えてくれる。当時の空気感も感じられる。JR7社の現状も丁寧に描かれており知的好奇心も満たされる。人口減少下において地域公共交通の再構築が課題となる昨今であるが、歴史としての国鉄改革を顧みつつ、こうした足下のテーマを考察するためにも有意義だ。大手メディア経済部の面目躍如たる良書である。
(中央公論新社、税込み1980円)