Nikkin金融講座 金融入門(9)事業資金を仕入れる方法はいくつある?(2)
2023.12.01 04:01
企業が手元に残している資金を「内部留保」と言います。財務省の調べでは、2022年度の内部留保(金融・保険業を除く)は554兆7777億円となり、過去最高を記録しました。内部留保が増えるのは11年連続です。多額の内部留保は業績が悪化した際の備えになりますが、単に貯め込むだけでは新たな利益は生まれません。政府は、企業が成長に向けた設備投資や人材獲得のための賃上げに資金を投じることを期待しています。
◆株式公開には多大なコストも
企業が活動するためには、なにかと資金が必要です。事務所を開く、原材料を仕入れる、人を雇う…。そうした活動資金を企業に供給することは金融の役割の一つです。前回の金融入門講座で、企業の資金調達方法には「直接金融」(債券や株式など)と「間接金融」(銀行借り入れなど)の2種類があると紹介しました。それとは別の分類方法として、返済義務の有無によって「負債(他人資本)」(債券や銀行借り入れなど)と「自己資本」(株式など)に分けることもできます。前者には返済義務があり、後者にはありません。
そのため、株式公開は企業にとって魅力的な資金調達方法です。ただし、相当の準備期間を要し、多大な労力とコストがかかります。株式を発行するには、証券会社による引き受け審査が必要です。その結果次第では、証券会社が株式売り出しの引き受けを拒否したり、発行条件の変更を求めることもあります。発行後は、投資家に対して業績や財務内容などの情報を継続的に開示する義務を負います。
証券取引所に上場していなくても、増資は可能です。非上場の成長企業に出資する個人投資家を「エンジェル投資家」と呼びます。また、「ベンチャーキャピタル」は成長企業に投資する投資会社です。両者にとっては、投資先の企業を上場させて自分たちの持ち株を高値で売却することがゴールとなります。
◆社債の安全度は格付けで判断
一方、負債は返済を前提とした借金です。企業が社債を発行した場合、投資家に金利を支払い、最終的に元本も返済します。一般的に、社債は償還までの期間が比較的長く、長期的な安定資金を確保するのに適しています。社債も銀行借り入れも同じ負債ですが、日常の業務に必要な運転資金は銀行からの借り入れで賄い、設備投資資金は社債発行で調達するという使い方が主流です。これらの負債を返済できなくなると企業は破綻(はたん)します。
社債の金利は、その企業が破綻するリスクに応じて異なります。デフォルト(債務不履行)リスクが高ければ、金利も高くなります。ただ、個々の投資家が企業の破綻確率を予測するのは困難です。そこで登場するのが専門機関である格付け会社です。投資家が安心して投資できるように、社債が約束通り返済される確率を判断し、その安全度を「A(シングルエー)」や「BBB(トリプルビー)」などのアルファベット記号で表します。
一般の債券は「優先債」といわれ、企業が破綻しても残余財産の中から優先的に返済を受けられます。これに対し、返済の優先順位が低い債券を「劣後債」と呼びます。破綻時のリスクが高い分、利回りは高くなります。劣後債は自己資本の性質を持ち合わせており、自己資本と負債の中間的な証券となります。
◆フィンテックやAI審査も登場
増資や社債発行が可能なのは、主に知名度の高い大企業です。中小企業の資金調達は銀行借り入れが中心ですが、知名度の低い企業でも利用できる代替的な資金調達手段も登場してきました。その代表格がクラウドファンディングです。事業者がインターネットで新製品や起業のアイデアを発信し、共感した人から小口の資金を募る仕組みです。
オンラインレンディングは、企業の会計データなどをもとに人工知能(AI)が融資の可否を判断し、オンライン上で手続きが完結する融資サービスです。通常の銀行融資よりもスピーディーに借りられるのが特徴です。
既存の銀行が融資審査にAI技術を取り入れる動きも広がっており、将来は融資審査のあり方も様変わりする可能性が高そうです。
日本金融通信社編集局 国定直雅
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