バンカーの幸せ④~ありがとう因子、徳が生む共感
2023.12.10 04:55
今回は幸せの第二因子「ありがとう因子」についてお話しいたします。人に親切な人、利他的な人、多様な友のいる人は、自分は幸せだと感じるそうです。正式には「つながりと感謝の因子」と言います。
この因子について考える時、私は「徳」という言葉を思い浮かべます。江戸時代、子ども達が寺子屋に入ると最初に学ぶのが、四書五経の中の「大学」だったそうです。そして「大学」の最初の言葉は、「大学の道は、明徳を明らかにするに在り、民に親しむに在り、至善に止まるに在り」という三綱領から始まります。古人が子どもの頃からこうした学びをしていたことは凄いことだと思います。
さて、「徳」とは何でしょうか?私は自分なりに「徳」を、「世のため人のために精一杯尽くすこと」と解釈してきました。経営者として悩んだ時、自分はこの仕事を通じて「徳」を積めているのだろうか? と自問自答したことがあります。松下幸之助さんは、「感謝の人間関係を稼ぐために人は仕事をしている」とおっしゃっていますね。
英語には、serviceという言葉があります。ロータリークラブで「職業奉仕」は大切な言葉ですが、元の英語は「vocational service」です。ラテン語で「vocatio」とは召命のことだそうです。欧米のクレジットユニオンのスローガンは、「not for profit.not for charity.but for service」です。天から与えられた仕事を通じて、世のため人のために尽くせているか? と問いかけられているようです。信用組合で、街のゴミ拾いやお祭りの後片付けをしていたところ、それが職業奉仕だとロータリークラブの先輩から誉められたことがあります。そして、「He profits most who serves best .」日本語でも、「積善の家に余慶あり」と言いますね。
二宮尊徳さんは、日本の信用組合の萌芽である「五常講」を創られました。「四徳」すなわち「仁」「義」「礼」「智」により、「信」が生まれる。これを「五常」と言います。この五常の精神で皆でお金を出して助け合うことを、江戸時代の後期に実践されていたわけです。先人の言葉や実践の中には、時代を越えて今の私達を問い直す数多くのポイントがあります。
私が手本とする経営者は皆さん人徳を感じさせます。事業は自分の計算から出発せざることとも言います。人を喜ばせる力「他喜力」のある経営者でありたいと思います。「君子とは有徳の称なり。その徳あれば、則ちその位あり」「Noblesse oblige.位高ければ徳高きを要す」「春風を以て人に接し秋霜を以て自ら粛む」。自分の経営者としての過去を振り替えると、恥じ入るばかりです。
社員を思い、取引先を思い、地域を思う経営者の姿は共感を生みます。そしてそれは経営者自身の幸せにとっても不可欠であることを、この幸せの第二因子は示唆しています。
そんなのは単にきれい事ではないか?と思われる方もいらっしゃるかもしれません。次回(1月14日予定)は、何故利他的な人が成功するのかについて、もう少し詳しくお話ししたいと思います。
筆者プロフィル
新田信行(にった・のぶゆき) 開智国際大学客員教授、一般社団法人ちいきん会代表理事。
千葉県出身、1981年一橋大法卒、第一勧業銀行(現みずほ銀行入行)、みずほフィナンシャルグループ与信企画部長、みずほ銀・銀座通支店長、同・コンプライアンス統括部長を経て2011年みずほ銀常務執行役員。2013年第一勧業信用組合理事長、同会長、2021年退任。2016年黄綬褒章受章。
著書 「よみがえる金融」(ダイヤモンド社)、「誇りある金融」(共著、近代セールス社)、「リレーションシップバンキングの未来」(共著、金融財政事情研究会)
新田信行氏の過去の連載 はこちら アフターコロナへの展望(全10回)
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