Nikkin金融講座 金融入門(1)はじめに ~金融は特殊な世界なのか~

2023.10.06 04:01
金融入門
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Nikkin金融講座 金融入門

これから半年間、22回にわたって「金融入門」講座を連載します。本紙の読者は、金融機関に勤める「金融のプロ」が大半です。一方で、この講座の読者は、プロ入り間もない新入社員の方や、金融機関への就職・転職を検討されている方を想定しています。最初にお断りしておきますが、学者の先生や金融実務にたけた本職の方々の文章とは比ぶべくもありません。ただ、記者として数十年、金融界の潮流や転換点を間近に観察してきた視点から、金融の魅力や奥深さをお伝えできれば幸いです。

金融入門(1)


 バブル崩壊を嘆いたニュートン

金融は特殊な世界です。国家の財政、企業の事業活動、個人の生活を支えるという重要な役割を担う一方で、時には人々を奈落の底に突き落とすこともあります。金融史は人間の欲望の歴史でもあり、人類はその欲望ゆえに何度も同じ過ちを繰り返してきました。

 万有引力の法則を発見したアイザック・ニュートンは金融通でした。財務大臣に就任した教え子の紹介で、一時は王立造幣局長官を務めたほどです。しかし、その後に起きた「南海泡沫事件」では、南海会社の株式売買で2万ポンドの損失を出しました。現在の貨幣価値で約4億円の大損です。科学史に名を残した天才は「天体の動きなら計算できるが、人々の狂気までは計算できない」と嘆いたそうです。

 ちなみに、南海泡沫事件は「バブル」の語源です。英国では1710年代に南海会社の株価が急騰して株式ブームが到来し、新規会社の設立が相次ぎました。南海会社は新興企業の乱立を危惧して政治家に働きかけ、1720年に「泡沫会社禁止法(Bubble Act)」が成立しましたが、皮肉なことに法律成立直後から南海会社株の暴落が始まり、バブルははじけました。


 切っても切れない戦争との関係

個人レベルの狂気が際限のない欲望だとすれば、戦争は国家レベルの狂気と言えるでしょう。中世の欧州では、領主らが軍事費を借金で賄いました。しかし返済を踏み倒す国王があまりにも多く、当時の著名な金貸しの多くは破産しています。

 日本の国際金融市場デビューは、日露戦争の戦費調達でした。戦争中に4回、戦後は借り換えのために2回、海外で国債を発行しました。その結果、戦後の公債残高は開戦前の約40倍に膨らみました。日本は幸運にも第一次世界大戦の特需によって借金を返済できましたが、ロシアは革命の影響でデフォルト(債務不履行)に陥りました。昨年6月に起きたロシア国債のデフォルトは、ロシア革命以来、約100年ぶりの珍事でした。


 手元資金の何倍も貸し出せる?

「信用創造」という銀行の機能も、金融の特殊性を物語っています。そのルーツは17世紀の英国にさかのぼります。

 当時、金を保管・加工するゴールドスミス(金匠)という職業がありました。預かり証は、重いゴールドに代わって他人への譲渡に使われるようになり、やがて紙幣のように流通し始めます。そうなると金を預けっぱなしの人が増えるため、金匠では預かった量に比べて、預かり証との交換に必要な量は常に少なくて済みます。そこで金匠が手元のゴールドを貸し出したところ、借りた人はすぐに金匠に持ち込んで預かり証と交換するため、金の量はあまり減りませんでした。このサイクルが繰り返されることで、預かった量の何倍もの貸し出しが可能となりました。

 この預かり証は紙幣の原型であり、信用創造の機能は現代の銀行に引き継がれています。銀行は、預金者が一斉に現金を引き出すことはないという前提に立って、預金量を上回る貸し出しをしてきました。しかし、ひとたび信用を失えば預金者が殺到し、つぶれる宿命を負っています。歴史的に銀行の建物が立派なのは、信用なしには成り立たない商売ゆえなのです。

 日本金融通信社編集局 国定直雅

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