【推薦図書】『新たなルネサンス時代をどう生きるか:開花する天才と増大する危険』(イアン・ゴールディン、クリス・クターナ著、桐谷知未訳)
2023.09.29 04:45
【推薦者】東短リサーチ社長・加藤 出 氏
技術革新対応で分かれる明暗
15~16世紀の欧州では画期的な技術革新が相次ぎ、それらが経済や思想を劇的に変容させた。この変化の波に積極的に乗った人々と、変化を嫌った人々との間に生じた大きな明暗を、本書は現代のデジタル革命に絡めて描写している。
1940年代に現れた印刷術は現代のSNSのようにコミュニケーションに革命を起こし、「それ以前のものを容赦なく時代遅れにした」。それまで本は非常に貴重で、専門知識は大学にいる学者から徒弟制度的に口頭で学ぶ必要があった。しかし印刷機の登場で人々が本に接する機会が増えると口頭教育の学者の権威は凋落(ちょうらく)した。
当時のヴェネツィアは世界で最も豊かな地域だった。繁栄の源泉はインドからの香料輸入の陸路確保にあった。ヴェネツィア人は航海技術が進歩しても船でインドに行くことは不可能と信じていた。だがポルトガルのヴァスコ・ダ・ガマによる航路発見を知り、彼らは「唖然(あぜん)」とする。膨大な利益をもたらしてきた陸路が時代遅れのインフラになったことに気づいたからである。本書は「ヴェネツィアの最大の失敗は、しだいに明らかになってきた脆弱(ぜいじゃく)性を前にしながら、現状に満足し切っていた」点にあったと指摘している。現在の日本にも示唆に富む一冊といえよう。
(国書刊行会、税込み4070円)