【Discovery 専門家に聞く】Jリート展望、コロナ下の「三重苦」から「回復軌道」へ

2023.08.26 04:45
インタビュー Discovery
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SMBC日興証券 株式調査部シニアアナリスト・鳥井裕史氏

SMBC日興証券 株式調査部シニアアナリスト・鳥井裕史氏


不動産市場は2020年以降、新型コロナウイルスの影響でオフィスやホテルなどの需要が低迷。不動産物件に投資して賃貸料収入や不動産売買益を原資に配当する「不動産投資信託(REIT)」も大きな打撃を受けた。新型コロナが「5類」に移行したいま、国内REIT市場(Jリート)を取り巻く環境はどう変化しているのだろうか。市場分析の第一人者、SMBC日興証券の鳥井裕史シニアアナリストに聞いてみた。Jリート展望


――Jリートの現状と今後をどう見ていますか。
 リートの価格決定に影響するのは、主に(1)長期金利(2)クレジット市場(3)不動産市況――の3つの動きだ。少し前までは(1)金利上昇リスクへの懸念(2)クレジット市場の不透明感(3)オフィス空室率の高止まり――により、三重苦の状況だった。
 足元の環境は変わりつつある。(1)日本銀行の長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)修正による悪材料の出尽くし(2)クレジット市場の安定(3)オフィス需要の回復――が重なり、市場を取り巻く環境は良くなりつつある。
 Jリート全体の値動きを示す東証REIT指数は、これまで1800台半ば~1800台後半で推移してきた。ただ、過度な懸念材料が払拭(ふっしょく)されてきたことで、23年後半のメインシナリオとしては1900~2000にレンジを切り上げることが想定される。


――不動産市場の見通しを教えてください。
 Jリートの保有物件をタイプ別に分類すると、時価総額に占める割合(7月末時点)はオフィスが36%、物流施設が23%、住宅が16%、商業施設が13%、ホテルが8%、その他が4%となっている。
 前述のメインシナリオの試算では、ホテル収益がコロナ前の19年水準に回復することは織り込んでいるが、それ以外の成長期待は織り込んでいない。ホテルは今年に入ってから宿泊単価の上昇が顕著だ。ホテル以外の物件は、契約期間中は月額賃料が一定だが、ホテルだけは毎月の売り上げによって月額賃料が変動する契約となっている。そのため、ボラティリティ(価格変動の幅)は高いものの、アップサイドも大きい。
 オフィスについては、需要の悪化は止まったものの、賃料上昇や増配を強く期待できる段階ではないため、メインシナリオには反映させていない。ただ、世界最大のリート市場を持つ米国に比べ、アジアはオフィス空室率の改善が速い。コロナ下では在宅勤務の広がりによってオフィス縮小の動きが続いたが、直近で日本のオフィス出社率は8~9割と言われている。シンガポールの出社率はほぼ100%で、オフィス賃料が大幅に上昇している。


――地域金融機関はどのようにリートに投資しているのですか。
 押し目買いを徹底し、狭いレンジで売り買いしている印象だ。東証REIT指数に連動する上場投資信託(ETF)に限ると、投資家の90%超を地域金融機関が占めている。その投資動向をみると、東証REIT指数が1800程度に低下した時に押し目買いをして、1900程度に上昇すると利益確定売りをする傾向が強い。
 日銀がマイナス金利政策を導入した16年以降、第二地銀を中心にリート投資を開始もしくは再開する地域金融機関が増えた。そうした先は、Jリートの個別銘柄よりもETFを核に投資するところが多い。継続的にリートを購入してきた銀行でも、以前から保有していた個別銘柄を売って益出しをしながら、ETFを購入してポジションを拡大する傾向が強まった。
 地域金融機関が個別銘柄に投資する際の選定基準は、一定以上の高い格付けを取得していることが条件となる。国内では約60銘柄が上場しているが、時価総額が1千億円に満たない小規模なリートでは格付けを取得していないところもある。リート同士の合併を通じて規模拡大やポートフォリオの分散を図ったうえで高い格付けを取得し、機関投資家が投資しやすい銘柄を増やす必要があるだろう。

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