【推薦図書】『生産性とは何か』(宮川努著)
2023.08.04 04:45
【推薦者】日本銀行金融機構局長・中村康治氏
生産性を正しく理解する一助に
コロナ禍からの回復過程にある日本において、人出不足が深刻化するとともに、改めて日本の潜在成長率に注目が集まっている。人手不足の対応にしろ、潜在成長率の引上げにしろ、重要なのは生産性の向上である。生産性という言葉自体、多義的で、人によって解釈が異なるものである。生産効率の向上のためのコストカットを強調する見方もあれば、新たな財・サービスの提供によって需要を作り出すことこそが生産性向上のカギであるとする見方もある。
銀行の実務経験もある生産性分析の第一人者である著者は、生産性の概念的な整理から始め、マクロレベル、産業レベル、企業レベルのそれぞれにおいて実際に生産性の計測を示すことで、日本経済の様々な問題を浮き彫りにしている。
一般的には、R&Dへの投資の拡大により技術革新を進めれば生産性が向上すると言われている。しかし、著者の分析によると、日本も含めR&D投資を増やせば生産性が直ちに向上するわけではない。新しい技術を使う人や組織の変革なくして、技術革新の成果を生産性向上に結び付けることはできないことを本書は明らかにしている。政府も重要な役割を担うが、この点については更なる分析を期待したい。
(筑摩書房(ちくま新書)、税込み880円)