【Discovery 専門家に聞く】銀行の保有データをマーケティングに生かす

2023.07.29 04:45
インタビュー Discovery
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ダイナトレック  取締役(経営企画担当):佐伯卓也氏(左)、取締役(製品技術・コンサルティング担当):佐伯慎也氏(右)

ダイナトレック
 取締役(経営企画担当):佐伯卓也氏(写真 左)
 取締役(製品技術・コンサルティング担当):佐伯慎也氏(写真 右)


多様な取引先を抱える銀行には、膨大な取引データが蓄積されている。そのデータをどう利活用していくかは、デジタル時代の重要な課題だ。銀行の仮想データベース(DB)構築を手がけるダイナトレック(東京都)の佐伯卓也取締役(経営企画担当)と佐伯慎也取締役(製品技術・コンサルティング担当)に、データを有効に生かすためのコツを聞いた。保有データ


“一次情報”は銀行の強み
 銀行には、業務別にいろんなDBがある。情報系DB、顧客DB、預かり資産の販売DBなどだ。これら全てのDBを横断的に分析したいというマーケティング上のニーズが、ここ10年来、銀行で高まってきている。そのために、以前は多大なコストをかけて、数年単位のプロジェクトで、統合DBを構築するのが一般的だった。
 当社が提供する「DYNATREK」は、銀行内の各DBから自動的に必要な情報を集めてきて可視化するのが特徴。各DBを顧客番号で紐づけることにより、仮想的な統合DBとして利用できる。一つの巨大なDBを作る必要がないため、低コストかつ短期間での開発が可能だ。
 これまでに地域銀行を中心に約30行が採用。データ利活用の目的や方法は各行それぞれで、30行あれば30通りある。ただ、銀行業の共通点としては、自ら顧客と接して入手する一次情報を豊富に持っており、そこは他業種にはない大きな強みだ。


日報は生きた情報の宝庫
 データを可視化する時に一番大事なことは、それを行動につなげること。例えば、コア業務純益が期末にどう着地するかを予想するだけでは意味がない。着地予想が目標に届かない場合は、その背景を深掘りして具体的な打ち手を議論することが必要だ。その際に役立つのが、渉外担当者が業務日報に書き込む情報。日報には、その地域で何が起こっているかという生の情報が蓄積されている。これは銀行の大きな資産といえる。
 コロナ下では、日報の交渉履歴に全文検索をかける機能が活躍した事例もある。「コロナ」や「条件変更」などのキーワードで検索を行い、資金繰り支援の優先度が高い企業をリストアップするのに役立った。
 最近は、営業推進用のリスト作成に日報を活用する事例もみられる。従来は「投資信託の特定商品を買ってくれそうな顧客」という形のリストアップが主流だったが、これだと営業現場が営業トークに困るケースが多い。なぜなら、電話セールスをする際に顧客から「なぜ私に電話してきたの」と聞かれても「リストに名前があったから」とは言えず、答えようがないからだ。一方で、日報の交渉履歴から「相続に関心のある人」や「生前贈与を毎年している人」などを抽出して、ニーズに基づくリストを作れば、顧客からは「私の困りごとに銀行が気づいてくれた」と評価されやすくなる。


店舗間協調促す目標設定
 近年のトレンドとして、一律的な営業目標の設定をやめて、営業店単位の自主目標を策定する銀行が増えている。その場合、店舗ごとに追いかける計数が異なるため、店舗単位でデータをきめ細かく作成する事例が増えている。
 こうした銀行では、競争性KPI(成果指標)をなくすことで店舗間の協調関係が強まりやすくなるが、店舗業績による表彰制度を残している銀行であっても工夫次第で店舗間協調を促すことは可能だ。その点に関して言えば、ノルマがあるかないかは、それほど大きな問題ではないと感じる。
 具体的な工夫の事例としては、一つの案件を取るためにA支店とB支店が貢献した場合に、業績評価で両支店に配点できる仕組みになっていれば店舗間で無用な競争意識は働かない。システム面の進化によって、そうした評価方法を取り入れることも可能になっており、柔軟な業績管理を行うことで解決できる課題もある。

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