【推薦図書】『測りすぎ なぜパフォーマンス評価は失敗するのか?』(ジェリー・Z・ミュラー著、松本裕訳)
2023.07.07 04:45
【推薦者】武蔵大学副学長 教授・大野早苗氏
業績評価が組織をダメにする?
業績評価を求める世の中の風潮は強まる一方で、パフォーマンス測定は教育分野や医療分野、非営利組織などでも広がっている。ただし、活動の中にはパフォーマンス測定が容易なものと容易ではないものがある。しかも、パフォーマンス測定が困難な活動のほうが本質的かつ重要であったりする。業績評価が、測定しやすい特定の活動に関する数値情報に基づいて行われると、測定困難ではあるが重要な目標が犠牲となる。終(しま)いには測定基準の改ざんまで行われる。パフォーマンス測定が報酬や懲罰の基準として使われるようになると、問題はさらに深刻となる。
本書は、パフォーマンス測定が組織の機能不全につながることを様々な事例を紹介しながら解説している。筆者は決してパフォーマンス測定を否定しているわけではなく、うまくいくケースも説明している。しかし、創意工夫が求められるような活動には向かない。また、パフォーマンス測定に固執するあまり、測定に膨大なコストをかけ、より本質的な活動に資源が回らなくなってしまう可能性も指摘している。
小職もパフォーマンス測定に携わる機会があったが、その時に感じた釈然としない思いを本書は明瞭に言い当ててくれた。本末転倒な結末だけは回避したい。
(みすず書房、税込み3300円)