【Discovery 専門家に聞く】実現する?「資産運用立国」

2023.07.08 04:45
インタビュー Discovery
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澤上篤人・さわかみホールディングス代表

澤上篤人・さわかみホールディングス代表


政府が「資産所得倍増プラン」に続き、「資産運用立国」に向けたプランを策定する。金融機関は「顧客本位の業務運営(フィデューシャリー・デューティー=FD)」の徹底を求められ、一方ではNISAの恒久化やiDeCoの加入年齢引き上げなど「貯蓄から投資」を後押しする制度面の環境整備が進む。運用会社や年金基金などアセットオーナーのガバナンス改革に向けた機運も高まっているが、一連の取り組みは本当に日本の金融界を変えるのか。長期投資の第一人者として知られる澤上篤人・さわかみホールディングス代表(76)に疑問をぶつけてみた。


――2024年に新NISAが始まります。長期の積み立て投資が広く普及するきっかけになるでしょうか。
 「制度改正の方向性は良いが、タイミングが悪すぎる。金融緩和が生み出したバブルの膨張は終わりが近づいていると見ている。金融機関が新NISAの開始を機に一般の生活者に対して投資をあおってバブルが弾けてしまえば、日本は過去と同じ失敗を繰り返すのではないか。投資信託による20~30年の財産づくりは税優遇を受けられなかったとしても有効な手段で、個人が制度を意識しすぎるのも利益確定の売却につながるため望ましくない」


――金融庁は金融機関にFDの徹底を求めています。澤上さんは変化の兆しを感じていますか。
 「新NISAも含め、税制優遇を投信販売を拡大させるためのビジネスチャンスと捉えている向きは今でも強いのではないか。過度な口座の獲得競争が繰り広げられるのではないかと不安を感じている。商品面でも、18年のつみたてNISA開始時には制度に合致する商品が乱造された経緯があり、今回も同じ流れになりそうだ。本当に長期的な運用の責任を持てるのかと問いたい」


――資産運用立国を果たすための課題はどこにありますか。
 「長期投資の考え方を理解した人材が圧倒的に足りておらず、育成が急務だ。手数料を稼げる金融商品の販売に軸足を置く従来型の証券会社のような発想で資産運用ビジネスを手掛けてはいけない。例えば、0歳の赤ん坊の名義で口座開設をいただいたら、80、90年にわたり責任を負うことになる。時間軸を根本から切り替えることが大切だろう」


――販売会社を通さない独立系投信の成長に期待する向きも見られますが、親会社の意向で規模拡大を重視した路線に切り替える動きも出てきました。なぜ、経営者の初志貫徹が難しいのでしょうか。
 「口座管理や、頻繁に改正される法令を順守するために必要となるシステム整備などに資金がかかり過ぎる。私も個人の借入金が10億円を超えている時期があった。独立系が利用できる共通のプラットフォームがあれば、志を持つ人が運用に集中する形で長期投資のためのファンドを立ち上げられるようになる。私自身、プラットフォームの構築をずっと模索している」


澤上 篤人(さわかみ・あつと)
 愛知県出身、76歳。愛知県立大学卒、松下電器貿易(現パナソニック)や証券会社を経てピクテ銀行の日本代表を務めた。1999年に日本初の独立系投信会社となるさわかみ投信を立ち上げ、販売会社と提携しないスタイルの経営を確立。現在は経営の一線から退いているが、オーナーとして引き続き経営陣に助言している。オペラの愛好家で、財団法人の理事長として芸術文化の振興などにも取り組んでいる。

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