米国現地取材「デジバン2023」 生成AIと顧客体験が焦点

2023.06.28 04:33
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展示会場では活発な意見交換が行われた
展示会場では活発な意見交換が行われた(6月12日、フロリダ州ボカラトンのザ・ボカラトン)

6月12~14日、米国フロリダ州・ボカラトンでアメリカン・バンカー紙を発行するアリゼント社主催の「デジタルバンキング2023」が開かれた。「生成AI(人工知能)」「CX(顧客体験)・カスタマージャーニー」「オンライン融資」「サイバーセキュリティ対策・不正検知」などをテーマに、68セッション、73社によるブース展示が行われ、全米から銀行関係者ら約870人が参加。現地取材を通して分かった最新のデジタルバンキング事情をピックアップして紹介する。


AIチャットの活用広がる


数あるセッションのなかで参加者の関心が高かったのが、チャットGPTを代表とする生成AIの活用だ。特に、与えられた質問に文章や画像を自動生成する対話型チャットボットをいかに銀行業務に組み込み、生産性向上やコスト削減につなげるかが議論の焦点となった。


フロリダ州のサウス・ステート・バンクは、5月に行内用のAIチャットボット「テート」を導入。イントラネットでローンなど数百ページにおよぶ各種取引規定や行内データベースを調べるのに活用。「行員に専属の調査官が付くようなもの」(クリス・ニコールズ・キャピタル・マーケッツ部門長)で、これまで1回の情報収集につき1人あたり平均10分かかっていたところが数秒~数分に減少した。


ただ課題もある。AIは完璧ではなく、現在確認されている誤った回答の7割が学習したデータにない情報をもっともらしく生成してしまう「Hallucination(ハルシネーション=幻覚)」によるものだと指摘。対策として、AIが質問の意図を正確に認識できるよう、行員に単純明快な文章を書くスキルを訓練。また、SEO対策に似た形でAIが正しい情報をデータベースから引用しやすいよう、書類の題名やキーワードなどを最適化する重要性も述べられた。


AIチャットボットの活用を巡っては、6月6日に米消費者金融保護局(CFPB)が顧客から多数の苦情が寄せられているとの調査結果を発表。米国では、2022年に人口の37%が銀行サービスでチャットボットに触れた経験があり、今後その数は増加すると予測されている。会場の銀行関係者からは、「大切なのはAIが顧客と行員のミドルポイント(中間点)であり、補完するツールとなることだ」との声が聞かれた。


CXの3原則とは


かつてバンク・オブ・アメリカでAIアシスタント「エリカ」の開発を手がけ、現在ウェルズ・ファーゴでコンシューマー・デジタル部門長を務めるミッシェル・ムーア氏の講演に注目が集まった。



CXの3原則を解説するウェルズ・ファーゴのムーア氏
CXの3原則を解説するウェルズ・ファーゴのミッシェル・ムーアコンシューマー・デジタル部門長(6月12日)

同氏は、「人は銀行アプリをアマゾンのようなアプリと比べている」としたうえで、CXの3原則「一生涯のファンづくり」「途切れのない手軽さ」「美しさの追求」を解説した。


同行では春にアプリの新機能「ライフシンク」をリリース。老後資金など設定した貯金目標の進捗をリアルタイムで管理できる機能で、目標達成に役立つコラムや情報を配信するほか、達成計画を同行のアドバイザーと相談し設計できる。ログイン画面の背景を朝昼晩で変化させるなど、ビジュアル面にもこだわりを持たせている。これにより、銀行アプリを生活の中心として利用してもらう仕掛けを整えているという。


また、ムーア氏は「デジタルはリアル店舗を置き換えるものではない」と加え、今後は支店でもアプリ同様に数分で口座開設ができるようにするなど”店舗のデジタル化”を進めると同時に、アプリを活用しながらパーソナライズされた顧客体験を提供する相談拠点としての機能を高めていく考え。


デジタルを駆使した新コミュニティーバンク


フロリダ州南東部・フォートローダーデールに本拠を置くロカリティ・バンクを視察した。すべての金融サービスが非対面で完結するデジタルファーストでありながら、フェース・ツー・フェースを重んじる地域に根差した新しい形のコミュニティーバンクだ。小規模事業者を中心に700近くの顧客を抱え、22年1月の営業開始2年足らずで事業黒字化を見込んでいる。



銀行店舗を感じさせないオープンな空間に30人の銀行関係者が視察に訪れた(6月12日)
銀行店舗を感じさせないオープンな空間に30人の銀行関係者が視察に訪れた(6月12日)

現在地マークが目印のこぢんまりとした1階建て・約230平方メートルの建物は、本部機能を備えた同行唯一の拠点。中に入ると窓口や記帳台などは見当たらず、2、3部屋の個室とキッチン、メインフロアにはパソコンが置かれたハイテーブルが並ぶ。行員の事務スペースはない。実は顧客が打ち合わせなどで利用できるコワーキングスペースとしての機能を果たしているという。


同行の金融サービスはすべて、オンライン・モバイルバンキングシステムを通じていつでもどこでもアクセスできる。デジタルバンキングソリューションの「Nymbus(ニンバス)」が提供するクラウド基盤の基幹システム上で構築。API(データ連携の接続仕様)で外部サービスにシームレスにつながる仕組みで、迅速な融資実行などを可能にした。


共同創業者のコーリー・ルブランCOO兼CTOは、「デジタルバンクだという認識はない。サービス提供がデジタルなだけで、顧客とのリレーションは全てにおいてヒューマンタッチを大事にしている。オンラインでの手続きで技術的な問題が発生したり、事業展開を誰かに相談したい時など本当に必要な時に行員が駆けつけて寄り添う」と話した。

米国デジタルバンクの課題


米銀はフィンテックとの競争に遅れることなくDX(デジタルトランスフォーメーション)への投資を加速しているが、残された課題は多い。アメリカン・バンカー紙は4月、大手行や地銀の役員ら200人にDXの考え方や課題に関する調査を実施。DXを進めるうえで重要な技術革命として「電子決済」「不正検知と防止」「デジタルID」「AI・機械学習」などがあがった。


一方、半数近くが「業界での導入実績など様子を見てから検討する」と、DXが進みにくい現状も垣間見えた。


今後の最重要課題としては順に「サイバーセキュリティ脅威の特定と是正」「レガシーシステムとの統合」「人材確保」「規制要件」が並んだ。



 フィンテックやベンダーなど外部機関連携のリスク管理も焦点となる。6月6日にはOCC(米財務省通貨監督庁)とFRB(米連邦準備制度理事会)、FDIC(米連邦預金保険公社)が共同でサードパーティーリスク管理の最終指針を発表。「フィンテックと消費者保護の交差点」と題した講演で登壇したOCCとFRBの担当者は「製品やサービスの運営はアウトソースできるが、その先に顧客がいる以上、責任問題はアウトソースできない」と強調した。

2024年の展望


イベントを締めくくるパネルディスカッションでは、地銀3行のCIO(最高イノベーション責任者)による24年の展望が議論された。キーワードとして生成AIを活用した生産性向上策や詐欺対策はもとより、高齢化する顧客基盤に対応する「シルバーテック」や、外部環境の変化に柔軟に対応できる「ノーコード・ローコード開発」、フィンテック企業を含む「第三者機関との提携」があがった。


銀行サービス以外で注目しているトレンドを問われると「消費者行動」と口をそろえた。どこに消費者の生活圏があり、どう生計を立てているのか。伝統的な金融機関がそうした環境につけ入る余地を研究・検証していく必要性がうかがえた。


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