【推薦図書】『エクストリーム・エコノミー ~大変革の時代に生きる経済、死ぬ経済~』(リチャード・デイヴィス著、依田光江訳)
2023.06.23 04:45
【推薦者】東短リサーチ社長・加藤出氏
示唆に富む9つの極限経済
「極限の状況から重要な教訓が得られるという考えは、科学者の間で広く共有されている」。この認識のもと、本書の著者は世界の9つの“極限経済”を渡り歩き、その背景や未来を考察している。日本の将来にとって示唆に富む逸話が非常に多い。
例えば、英グラスゴーは「20世紀に、これほど深刻な没落を経験した都市はほかにない」という理由で“極限経済”に選ばれた。同市は1900年代半ばにかけて2世紀もの間、世界の造船業の中心として繁栄を謳歌(おうか)した。しかし日独の造船業が戦後台頭すると、同市の造船業は壊滅的な打撃を受け、「20年足らずで崩壊」した。その没落過程は、数十年後に日本で起きた電機・半導体産業の凋落(ちょうらく)と似ていると評者には感じられた。
相次ぐ産業政策の失敗、財政破綻(はたん)、通貨崩壊の末に、人口の8割弱が貧困ライン未満で暮らすコンゴ民主共和国は、究極の“ダメ政府”の事例として解説されている。一方でエストニアは、世界最先端のデジタル化社会を実現しているが、その流れに取り残された人々の問題に焦点が当てられている。さらに、世界最速の高齢化社会として日本の秋田も登場するなど、本書は非常に興味深い分析に満ち溢れているだけに、一読をお勧めしたい。
(ハーパーコリンズ・ジャパン、税込み2640円)