【Discovery 専門家に聞く】新NISA普及へ、アプリ取引の苦手な層に対面サポートを
2023.06.17 04:45
ニッセイ基礎研究所 主任研究員・前山 裕亮氏
岸田文雄政権が昨年11月に「資産所得倍増プラン」を策定してから約半年が過ぎた。同プランの目玉施策である新NISA(少額投資非課税制度)は、2024年1月からスタートする。地域金融機関は、この好機にどう生かすべきか。ニッセイ基礎研究所金融研究部で資産運用全般について調査・研究する前山裕亮主任研究員に聞いた。
◆Q1.資産所得倍増プランに対する評価は。
A. NISA制度の拡充については、使い勝手もよくなり、非常に良い方向に向かっている。ただ、プランの中でNISA拡充のみしか注目されていないことに対しては不満がある。なぜなら、NISA拡充は既存の利用者にとってはメリットが大きい一方で、今回の拡充だけで新たな制度利用者が増えるとは思えないからだ。
これから資産運用を始める人を増やすには、iDeCo(個人型確定拠出年金)制度のより抜本的な改革や、中立的な認定アドバイザーの活用、官民一体となった金融経済教育など、プランに掲げられている他の施策が今後重要になってくるだろう。
NISA口座数は22年後半から拡大ペースが鈍化してきている。30~70代は7人に1人か2人が口座を保有しているが、逆に言えば7人中5人は利用していない。国だけに頼らず、金融業界全体で機運を盛り上げていく必要がある。
◆Q2.銀行は資産所得倍増プランを自らのビジネスにどう生かすべきか。
A. インターネット専業の証券会社や銀行は、資産運用に関心のある人が自分で調べて利用するのに向いている。ただ、これからは関心が低い人にいかにアプローチして、資産運用を始めてもらうかが重要になってくる。
そうした層にとっては、若干のコスト高になったとしても適正なサービス料を払い、対面のサポートを受けて資産運用を始めた方が、中長期的にはトータルでプラスになるのではないか。だから、銀行が資産運用の必要性やメリットを説いて背中を押し、フォローアップしていくことには意義がある。
銀行の収益面でみると、NISAを推進しても短期的な収益は望みにくいかもしれない。だが、資産運用人口の増加は潜在顧客が増えるということであり、長い目で見て信頼を勝ち取るためのドアノックツールとして活用してはどうだろう。
◆Q3.ネット銀行に比べ、地域銀行はスマートフォンアプリなどのオンラインツールが見劣りするとの指摘があるが、地元顧客にどうアプローチすべきか。
A. 地域銀がネット銀行とアプリのユーザビリティ(使いやすさ)で競うことは難しいだろう。あくまでも、対面とアプリのハイブリッドなサービスに活路を見出すべきだ。アプリで劣っている部分を対面サポートで補えば、ネット銀とも十分に戦っていける。
例えば、実際にスマホやタブレットを見ながら「一緒にやってみましょう」という形で説明することで、付加価値が生まれる。ネット証券と提携してシステム開発費を抑制することも、一つの選択肢になるかもしれない。
つみたてNISA口座の約3割は、口座を開設しても投資を始めていないのが実情だ。この3割の中には、アプリのユーザビリティをどれほど改善させても始められない人が一定数いると思われる。やはり対面のサポートが必要な層が少なからずいるので、地域銀はそうした顧客に対してアプローチしていってほしい。