【推薦図書】『ビジネスエリートの新論語』(司馬遼太郎著)
2023.06.09 04:45
【推薦者】信託協会専務理事・川嶋 真氏
司馬氏が贈るサラリーマンへのエール
本年は司馬遼太郎氏生誕100周年に当たるが、この大作家にもサラリーマン時代があった。本書は、作家司馬遼太郎誕生前、著者が産経新聞記者時代の昭和30年に、本名福田定一名で刊行された。
当時32歳、10年程のサラリーマン歴だが、古今東西の金言名句を引用し、俯瞰(ふかん)的・客観的に、鋭い洞察力でサラリーマンを観察し、考察を述べる。その眼差しは暖かいが、ときに耳が痛い。
例えば、定年退職後に「社会死によって世間の下水溝に溺死体をうかべ」ないよう、在職中に退職後も活かせる技能を磨け、と言う。この指摘は、サラリーマン人生の成不成功は、「退勤後の人生」の使い方だ、との忠告と相まって、定年後の人生が長くなっている今日、ますます重要性を帯びている。司馬氏自身、記者時代に「梟の城」で直木賞を受賞したが、仕事で文章力を鍛え、終業後に文筆活動に勤しみ、大作家への道を切り拓いたのだろう。
その他、議論好きの販売員を戒める「議論好きは悪徳」、サラリーマンは実年齢でなく職場年齢で老けると警告する「階級性早老」など、サラリーマンの生き方・時間の過ごし方にヒントを与えてくれる好著である。
(文春新書、税込み946円)