【Discovery 専門家に聞く】生成AIを業務に役立てる

2023.06.03 04:45
インタビュー Discovery
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Blue Lab デジタルストラテジスト/群馬県沼田市DX推進官・田村吉章氏

Blue Lab デジタルストラテジスト/群馬県沼田市DX推進官・田村吉章氏


人工知能(AI)開発の米国新興企業であるオープンAIが2022年11月に対話型AI「Chat(チャット)GPT」を公開してから、世界中で生成AIが注目を集めている。既にメガバンクや大手証券・保険会社は実証実験や業務活用に向けて動き出しており、今後は幅広いビジネスへの導入が進む見通し。みずほ銀行が投資ファンドなどと共同で設立したBlue Lab(ブルー・ラボ)のデジタルストラテジストであり、群馬県沼田市でDX推進官でもある田村吉章氏に、地域金融機関が生成AI導入を検討する際の留意点などを聞いた。


■生成AIで業務はどう変わる?
 生成AIは、インターネット上にある情報を基に、問い合わせたことに対して上手に答えてくれる。これはちょうど、いい先輩が隣にいるようなものだ。生身の先輩なら相手の都合も考えて質問しなければならないが、生成AIはいつでも相談に乗ってくれる。「それ、知らないよ」とは言わず、直球の回答が来ない場合でもヒントにはなるので、課題解決が迅速に進むだろう。こんなに都合のいい先輩を使わない理由は見当たらない。
 一つ勘違いしないでほしいのは、いまある業務を生成AIに置き換えられるわけではないということだ。生成AIが出力したデータを人間が確認せずに次の処理に渡せれば、業務の置き換えは可能だろう。だが生成AIに同じ言葉で質問しても、回答は毎回変わる。同じ回答を出すような再現性はないのだ。結果、出力したものを人間が見ないわけにはいかない。
 では何が変わるのか。それは、人間が資料やプログラムを作る工程だ。日々の業務には多くの工程がある。その中に生成AIを助っ人として入れることで、事務時間の短縮がいたるところで可能になる。


■金融機関が導入する際の留意点は?
 フランス料理を食べたことがない人に、その美味しさを伝える場面を想像してほしい。チャットGPTに「フランス料理とはどんなものか」と聞けば、「フランスの食文化に基づいた料理の総称です…」と説明文を用意してくれる。だが、本来は「まずは食べてください」だろう。一生懸命、ラム肉だの、シャンパーニュとのマリアージュなどと言葉を並べても、食べたことのない人には何一つ伝わらない。
 それは生成AIを使ったことがない人も同じだ。生成AIは、これまでのコンピュータに対する命令形式とは異なる「プロンプト」という入力形式を使う。その威力は、実際に入力して回答をみたときに初めて分かる。
 では、金融機関のすべきことはなにだろうか。私の提案は以下の4点だ。
(1)→行内ネットワークから独立したネットワーク環境を作り、そこで生成AIをなるべく多くの行員に使わせる
(2)→使い方教育を進め、現場の行員に業務改善案を出してもらう
(3)→並行して、行内ネットワークでも生成AIを使える仕組みを考える
(4)→セキュリティ対策や運用ルールは、先行している企業やメガバンクのものを取り入れ、自行流にアレンジしたものを作る
 逆に、ダメな進め方は上記の裏返しとなる。始めから行内ネットワークで使おうとすれば、情報漏洩リスクなどの議論に時間を費やし、導入が一向に進まなくなるだろう。また、DX推進部門に生成AIの活用案を検討させるよりも、業務に精通している現場にアイデアを考えてもらった方がいい。セキュリティ対策や運用ルールは、自前で作るよりも先行している企業を頼る方が時間を節約できる。


■チャットGPT以外の有望株は?チャットGPT以外にも便利なAIツールは多い 最も有名な生成AIはチャットGPTだが、これをメインで使う大手金融機関はないだろう。実際に利用するのは、マイクロソフト社の「Azure OpenAI Service」を軸とした大規模言語モデルになる。
 大手金融機関ではそう遠くない時期に生成AIの活用がスタートするだろう。内部では教育や演習が始まっており、BlueLabでは既に500人以上にAI体験会を実施した。大手金融機関の中には、生成AIの活用に向けたアイデアソンを始めたところもある。
 生成AIには、チャットGPT以外にも「DocsBot」や「ChatPDF」、「Stable Diffusion」など多くのものがある。また、生成AIとは一線を画すが、「DeepL」という翻訳ツールはとても便利で、英文を多用する人には重宝するだろう。これら多くの生成AIも合わせて、活用を検討していくべきだ。

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