【Discovery 専門家に聞く】次世代に事業再生ノウハウの継承を
2023.05.20 04:45
ロングブラックパートナーズ パートナー・牛越直氏
4月の企業倒産件数は前年同月比25%増の610件で、13カ月連続で前年水準を上回った(東京商工リサーチ調べ)。今後も、コロナ関連融資で過剰債務を抱えた中小企業の「息切れ倒産」や、「物価高倒産」などの増加が懸念されている。倒産に至る前に事業再生を支援するには、どうすればいいのか。高い再生スキルで地域金融機関取引先などの再生業務を手がけるロングブラックパートナーズの牛越直パートナーに、現状や課題を聞いた。
今春「再生キャンプ」を開講
当社には約100人のスタッフがおり、うち半分強が事業再生コンサルティングに携わっている。取り扱う案件は、地域金融機関の取引先の再生案件の中でも難易度が高いものが多い。当社は、事業再生計画を作って終わりではなく、担当者が現場に常駐して再生を支援する。年間で約60件の再生支援を行っており、うち4割がスポンサー譲渡型再生による抜本再生だ。本来は早期に再生に取り組むのが理想だが、資金繰りに行き詰まってから相談を受けるケースが多いのが実情だ。
かつて不良債権処理が最優先課題だった時代には、金融機関が融資・審査部門の再生セクションに優秀な人材を配置し、再生支援を手がけていた。そうした専門人材が定年の年齢を迎えており、次世代へのノウハウ継承が喫緊の課題となっている。
そのため、当社は4月から金融機関向けに「再生CAMP(キャンプ)」という事業再生実務研修を開講した。第1期生として、大手行や地方銀行、第二地方銀行、政府系金融機関など6金融機関から総勢15人が参加。7月までに全7回(計9日間)の講義を行う。個人ワークやグループワークの多い実践型研修で、事業再生総論から始まり、再生計画のモデリング、財務デューデリジェンス(DD)と事業DD、事業計画策定などを学ぶ。金融機関が与信管理のモニタリングに割ける人員が減っていることから、クラウドを活用したモニタリングなどのデジタルトランスフォーメーション(DX)に関する講義も用意した。23年度下期以降も継続していく予定だ。
再生ファンド活用に利点
スポンサー譲渡型再生には、事業会社がスポンサーになるケースと、再生ファンドがスポンサーになるケースがある。前者の場合は、事業会社が提示した譲渡金額を受け入れるかどうかを判断するだけで、金融機関側に交渉の余地は乏しい。一方、後者は再生ファンドとの交渉が可能な場合が多く、債務者も含めて三位一体で再生計画を策定できる利点がある。ただ、債務者の資金繰りが行き詰まる前の早期再生でなければ、再生ファンドの計画的な活用は難しい。
2018年以降、地域銀行の不良債権残高は増加傾向に転じている。コロナ下では中小企業が多額のコロナ関連融資を借り入れた影響で、手元資金は潤沢だが借入金は増加している。資金流出が続いて手元資金が枯渇すれば手遅れになるリスクがあり、早期再生に取り組む必要がある。
リーマン・ショック後に中小企業金融円滑化法(時限立法)が施行される以前は、金融機関主導で再生フェーズに進む案件が多かった。だが、リスケジュール(返済猶予)に応じる努力義務を金融機関に課した金融円滑化法の施行後は、債務者に再生を促しにくくなった。さらに、コロナ禍で事業者が被災者意識を持つようになり、その傾向に拍車がかかっている。
打開策の一つとして、まずは本業の伴走支援を行ったうえで、それでも改善が見込めない場合に再生フェーズに移行する手法を検討してみてはどうか。近年、地域金融機関はコンサルティング部門に優秀な人材を投入しているので、伴走支援の段階ではそのノウハウを生かすことができるはずだ。この方法で早期再生に取り組み、実務を通じて再び再生に長けた人材を育成してほしい。
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