【推薦図書】『風雲に乗る』(城山三郎著)
2023.05.12 04:45
【推薦者】三菱UFJニコス副社長・榎本真樹氏
キャッシュレスの源流を考える
今や城山三郎の愛読者もこの作品を知る人は少ないと思う。消費者信用の原点を考える上で興味深い。
主人公の鯛公介は温泉旅館の経営を手伝う中で、先に会員に温泉旅行をしてもらい、後に月賦で代金を支払う組織があることを知る。戦後、鯛はその発想を応用し「お金が無い大衆も、何カ月にもわたって払ってよいなら商品を買いたい人は多いはず」、「まじめに働いて妻子を養っている人間には立派な信用があり、間違いの無い人」と考え、大衆向け月賦ビジネスを始める。いつの時代も先駆者には様々なバッシングが付きものだが、消費者の支持を得て業容は拡大、一大産業となる。不撓不屈での成功譚。
確かに敗戦後の貧しい時代、メーカーがいくら良い冷蔵庫やバイクを作っても、買えなければ人々は豊かさを実感できない。製造業の陰であまり語られることは無いが、主人公の「大衆への信頼」が日本人の豊かさ実現に貢献したことは間違いない。
時代は下りキャッシュレス化が奔流となってきた。誰もが当り前のように割賦販売、クレジットカードなどのサービスを利用できるのは、先人の「世の中を豊かにしたい」という強烈な思いのお蔭であると改めて思う。
なお、主人公のモデルは山田光成(日本信販創業者、当社源流の1社)である。
(角川文庫、Amazon Kindle版535円、紙書籍版638円(ともに税込み)。)