寄稿「自治体×金融」①~黒子でも主役に

2023.01.04 04:55
地方創生 自治体×金融
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連携が拓く地方創生の未来

私はこれまで、財務省や金融庁などで勤務し、2022年3月までデジタル田園都市国家構想実現会議事務局に籍を置いていました(22年4月より現職)。所属省庁が変わっても地方創生に11年間も携わることができました。国家公務員としての仕事以外にも、熱意ある公務員と金融機関職員などの交流の場「ちいきん会」(22年2月一般社団法人化)を創設し、全国各地で地域課題解決に向けて対話してきました。これまで公私にわたって、地方自治体と金融機関の連携を調べ、実践してきた成果の一部をご紹介することにより、まだまだ伸びしろの大きい「官金連携」を促し、皆様が一歩踏み出す契機となれば幸いです。



デジタル田園都市国家構想実現会議事務局勤務時の菅野町長


観光庁の支援は一体再生型


最近は観光の動きも活発になってきました。金融機関としては宿泊事業者に対して、実質無利子無担保(ゼロゼロ)融資に取り組むほか、新しい生活様式に合わせたリノベーション、インバウンド(訪日外国人)需要を取り込もうとIT導入補助金や事業再構築補助金のサポートで関わってきたのではないかと思います。


中小企業庁としては、認定支援機関を通じて事業再構築補助金により個社支援を行っていますが、観光庁は個社ではなく、特定の観光地域に集中的に支援する手法をとる特徴があります。


観光庁の主力事業は、宿泊施設の改修や観光地の廃屋撤去などを支援する「地域一体となった観光地・観光産業の再生・高付加価値化」事業です。この事業では、特定地域で5社以上の宿泊事業者などがまとまり、一定のコンセプトの下で観光地再生に貢献する施設を改修する取り組みに対し、改修費の2分の1または3分の2を補助します。予算措置は20年度第3次補正予算が550億円、21年度予算が1000億円、22年12月に成立した22度第2次補正予算では1500億円になり、年々拡大しています。



「金融」に期待される調整役


ここで大切なのは「誰が調整役となるか」です。申請対象者は自治体、観光DMO、観光協会、観光事業者などに限られます。わが西川町は自らが申請者となり、月山志津温泉の宿泊事業者との対話を通じて申請・採択を受けることができました。


しかし、町役場が申請・調整役となる場合、短期間で宿泊事業者全員に事業内容を説明し、関心を持つ先を探し出す必要があります。改修内容も理解したうえで事業に合致する改修であるかどうかを調整することも求められ、難儀なものでした。



観光庁事業を使い撤去された月山志津温泉の廃屋(写真左が廃屋、右は撤去後)
観光庁事業を使い撤去された月山志津温泉の廃屋(写真左が廃屋、右は撤去後)

また、町が宿泊事業者と同じくらい対話の時間を要したのは金融機関でした。改修を目指す5社はいずれも費用を自己資金で捻出することが難しく、借り入れが必要だったからです。取引金融機関4社と調整することになったのです。


この事業申請には、金融機関の関与が必ず求められます。地元に精通する地域金融機関が持つ金融仲介機能と情報集約機能を生かせば、補助事業に該当するよう調整するだけで、容易に「調整役」を担うことができるのではないでしょうか。


直近で採択されたのは77地域です。最も多いのは静岡県の9地域で、そのうち7地域が伊豆地区に集中しています。申請者の自治体に聞くと、実際の調整役は三島信用金庫の子会社「さんしんキャピタル」ということでした。



求められる「利他」


観光地一体再生は『「利他」の精神』がポイントになりそうです。金融機関が調整役を担っても、申請先を自身が取り引きする宿泊事業者で固めるように調整できるほど、採択までの道のりは甘くありません。取引先に限定して無理にコンセプトを組み立てた結果、温泉組合などの協力も得られにくくなる場合があるからです。あるいは、温泉街で中核となりうる「看板お宿」が一つも入っていなければ地域をまとめることが難しくなります。


例えば、「温泉街として色を統一しよう」というコンセプトが定まらず、採択にいたらない場合もあります。たとえ調整役を担う金融機関の取引先ではなくても、真に地域全体の再生に貢献する事業者を加える包容力、自身の利害関係以上に地域再生を優先する『「利他」の精神』が求められると考えるからです。


さんしんキャピタルは「個社支援の補助金が少なくなるなか、申請者の半数が取引先であれば調整役を担う。地域のため、このチャンスを生かしたい」と強調していました。


本事業を活用するには、金融機関による融資が求められる場面が多くあります。しかも、短期間に宿泊事業者の課題を把握したうえで、コンセプトやタイミングを調整する「伴走役」が必要です。金融機関の特性を生かせれば調整役を担え、観光面で地域の付加価値向上につなげられる可能性を秘めているのです。


金融機関は、手数料の徴収を考えるかもしれません。収益確保の視点で考えるより、地域再生の観点を大事にしてほしいです。最も伝えたいのは地元に数億円規模の資金を呼び込み、地域の価値を高め持続可能な観光地にできるかどうかは「金融機関の熱量・覚悟」次第ということです。


今、金融機関が黒子ながらも「主役」となれるチャンスが来ています。このチャンスをつかんでいきましょう。私の経験が力になれるようであればいつでも連絡下さい!



筆者プロフィル


菅野大志(かんの だいし) 山形県西川町 町長


山形県出身、44歳。2001年早大卒、東北財務局入局、金融庁監督局銀行第一課、東北財務局金融監督第一課を経て、18年10月金融庁の「地域課題解決支援チーム」を創設し、公務員や金融機関などの有志が交流する「ちいきん会」(メンバー2500人超)を立ち上げた。19年金融庁監督局総務課地域課題解決支援室、21年内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局、22年内閣官房デジタル田園都市国家構想実現会議事務局、22年4月より現職。


 


※次回は1月8日(日)に公開します。


 


 

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