【実像】決済インフラ大変革(下)全銀システム開放、利便高め進化

2022.10.13 04:50
システム API
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全国銀行資金決済ネットワーク(全銀ネット)が運営する全国銀行データ通信システム(全銀システム)は10月7日、参加資格を資金移動業者に拡大した。希望する資金移動業者の接続が実現すれば、金融機関との相互送金などが可能になる。1973年の稼働から約半世紀が経つ全銀システム。安全性・安定性を堅持しつつ、顧客利便性の高い次世代決済サービスの創出へ、新たなスタートラインに立つ。


契機は公取委の指摘


全銀システムは、国内のほぼ全ての預金取扱金融機関(2022年7月末時点で1149機関)が接続する決済インフラだ。18年に「モアタイムシステム」を加えて24時間365日稼働を実現するなど機能改善を重ね、現在は第7次システムが稼働している。



今回の参加資格拡大のきっかけは、公正取引委員会が20年4月、競争条件のイコールフッティングの観点から「全銀システムへの資金移動業者のアクセス開放を検討することが望ましい」と指摘。これを受け、タスクフォースで資金移動業者なども交えて議論を重ね、21年1月には参加資格拡大を提言した。その後、制度面やシステム面の検討を経て、全銀ネットの理事会が22年9月15日、参加資格拡大を決めた。


資金移動業者にとっては、これまで金融機関に払っていた送金手数料を抑えられる。利用者にとっても、参加金融機関・事業者の多様化や相互運用性の確保による利便性向上が期待でき、国内のキャッシュレス化をさらに推し進める転機となりそうだ。


資金移動業8社本格検討


それでも、参加を躊躇する資金移動業者が多いとみられていたのは、参入のコストが決して安くないためだ。全銀システムの加入金は、直接参加する場合に約7000万円、間接参加(決済尻の資金清算を他の銀行などに委託)でも約1400万円かかる。さらに、自社システムの開発や全銀システムとの接続、日本銀行に当座預金口座を開設するなど負担は少なくない。加盟後は金融庁から事務ガイドラインに沿って監督を受け、銀行同様の高い健全性が求められることになる。


全銀ネットが日本資金決済業協会の会員である資金移動業者81社を対象に7月までに実施したアンケート(40社が回答)では、8社が「本格的に参加する可能性がある」と回答した。ただ、利用開始時期は全社が「未確定」としており、早期に参加するかどうかは不透明。それでも、8社を含め24社が参加要否の情報を収集していると答えており、将来的に検討する資金移動業者が増える可能性も出てきた。


相応の負担があっても各社が参加に前向きになった背景にあるのが、「デジタル給与振り込み」の解禁だ。英ワイズなど送金事業者は早期の参加があるとみられてきたが、QRコード決済事業者も関心を高めるきっかけになった。


一方、全銀システムに接続することで「自社経済圏での囲い込みが崩れる」と危惧する事業者もある。また、利用者が自社ポイントを現金化するたびに銀行側に内国為替手数料を支払う必要が出てくることも不安材料。こうしたなか「いつまでも囲い込みのフェーズで良いのか」という疑問の声もある。インターオペラビリティ(相互運用性)が高まることで利便性が高まる。決済事業者の利用者から銀行との相互接続を望む声が強まれば、全銀システムに接続するか迷う各社の背中を押す可能性もある。


銀行の6割がAPI希望


全銀ネットは、API(データ連携の接続仕様)ゲートウェイによる接続に対応できるよう準備を急ぐ。APIは、現行の中継コンピュータを介した接続方式と比べ、より安価で柔軟性の高い接続方式。当初、27年稼働の次期システムから切り替える方針だったが、複数の資金移動業者から要望があって早めた。実際、資金移動業者で本格検討中の8社のうち3社はAPI接続を希望。それ以外の情報収集段階の複数社も、接続するならばAPIが良いと求めている。システム開発を担当するNTTデータは、24年3月の開始を全銀ネット側に提案した。


API接続の早期対応は、既存の加盟行にとってもメリットとなる。全銀ネットが8月までに行ったアンケートでは、139行のうち約6割の79行が「APIゲートウェイの利用を希望する可能性がある」と回答。APIの利用開始時期については、現行の第7次全銀システム稼働期間(2027年まで)を10行が希望した。銀行にとっても従来の中継コンピュータ接続からの切り替えでコスト削減できるため。他行も、勘定系システム更改などに合わせてAPI接続に変更することが多くなる見通し。


既に全銀システムに接続している金融機関側は、おおむね歓迎ムード。ネットワーク効果が期待できることに加え、従来は銀行の口座からQRコード決済事業者などのアカウントに「一方通行」で流れていた資金が〝逆流〟し始める可能性もあるためだ。



全国銀行協会の半沢淳一会長(三菱UFJ銀行頭取)は「銀行界としては、決済機能を担う社会インフラとして、健全性・信頼性を確保した強靭な金融システムを維持していくことが責務。新たに参加する事業者とともにその責務を果たしていく」と断言。そのうえで、「各社が安定的かつ利便性の高い決済サービスを提供していけるよう切磋琢磨し不断の努力を重ねていくことが重要」と訴えた。


地域銀関係者は「決済は、それ自体で稼ぐのではなく、全ての取引のためのドアノックツールという位置付けに変わってきた。資金移動業者が加わることで、お客さまに更に幅広い提案をしていきたい」と語る。

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