中小企業融資の本質~最終回「地域経済エコシステム」

2022.10.09 04:55
中小企業融資の本質
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これまでの連載で、中小企業融資の本質がお分かりいただけたものと思います。最後に全体を俯瞰しつつ、残されたピースを述べたいと思います。


中小企業融資には、知的資産分析が不可欠です。その企業は顧客にどんな商品・サービスを提供しているのか、それらをどのように作り出して販売しているのか。それらを把握・分析することを個々の職員の努力に頼るのではなく、組織全体で保持していく仕組みが必要です。同時に財務分析ではバランスシートアプローチによりあるべき他人資本を明らかにし、事業の状態に合うように融資の組み換えを行います。与信判断を信用保証協会に頼る金融機関もありますが、債権者ガバナンスが曖昧(あいまい)になることは必ず避けなくてはなりません。


金融の本源的な機能は、企業のバランスシートに直接関与することで価値創造の一翼を担い、その結果として金融機関の未来をも創造することにあります。企業の将来計画づくりにおいて会計士をパートナーに迎え、現在のバランスシートの分析や知的資産を具現化していくための施策を検討します。そのアクションプランも含めて計画に合意することで、企業は未来へと続く経営が可能になるのです。


手数料を得るために物売りのような金融機関職員も散見されますが、融資によるバランスシートの繋がりから信用リスクを顕在化させずに永続的な収益を生み出すことと比べると、持続性に疑問が残ります。金融機関の本当の強みとは何なのか、事業の本質は何なのかを改めて考えると答えは明らかです。


かつては金融機関経営者のノルマ指向と、金融検査マニュアルを端緒とした日本型金融排除があるべき融資を阻害してきました。中小企業は金融排除に怯えつつ、魂のない非メインバンクの担当者とのやりとりに時間を割かれていました。金融機関の職員からすると、本来なすべきことしたいことができない時代が長く続き、志ある者ほど去っていくことになりました。地域金融機関の融資競争はまさに囚人のジレンマであり、それを指示する経営者は裸の王様に他なりません。


地域金融機関の経営には、現在多くの難問が立ちはだかっています。しかしながら全ての答えは“現場”にあり、それは中小企業融資に凝縮されています。企業に信頼されない金融機関に未来があろうはずはなく、それぞれが地域企業の未来を創ることによってのみ自身の存続が約束されます。それらのことを地域全体で実現するのが「地域経済エコシステム」の考え方であり、キーワードは“競争から共創へ”です。地方自治体と公的な支援機関に加え、地方大学や民間の支援者たちもさまざまな支援を行っており、金融庁や財務局も事業者支援態勢構築プロジェクトや地域課題解決支援に一層力を入れています。


このような状況で、勇気ある変革が最も求められるのが地方銀行です。企業経営者の指向は事業を拡大させたいか長く継続させたいかに分かれ、後者に最適なのが非営利協同組織のリレバンという伴走支援です。片や株式会社として利益を追求すべき地方銀行は、協同組織金融の領域に踏み込むことなく、企業の規模拡大を実現することが役割です。例えばスタートアップ企業などへは、経営者保証に代わる経営者株式担保のような支援を前提とした融資を主力とすることも考えられ、やがて来る事業成長担保権の創設はそれを推し進める大きな力になるはずです。


地方銀行こそが残された最大のピースです。特に地域一番手行は、明治、大正、昭和、平成の時代を経て、改めて令和の今に存在意義を見つめ直し、地域の未来と200年企業を見据えたモデルチェンジをなすべき時にあるのです。


 


過去の連載はこちらから


なお、「中小企業融資の本質」の連載は今回が最終回となります。

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