【地銀再編】「県内合併」が主流に 問われる収益増強策

2022.10.02 04:45
経営統合・合併
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ON近年の同一県内の合併
(注)青森銀とみちのく銀の合併時期は当初発表時のもの。最新の予定は2025年1月

八十二銀行と長野銀行が、2023年6月をめどに経営統合することが明らかになった。当初段階では八十二銀が長野銀を完全子会社化し、その2年後に両行は合併する計画だ。今回を含め、地域銀行の再編はコスト削減効果が大きい同一県内での合併が主流になりつつある(表)。ただ、持続可能な経営モデルを構築するには、新たな収益増強策を描くことが欠かせない。


「十八銀行と親和銀行が切り開いた道だ。あれがなければ、同じく貸出金シェアが7割を超える青森の再編もなかった」。SBI証券の鮫島豊喜シニアアナリストが指摘するように、近年の県内合併に先鞭を(せんべん)をつけたのは長崎県の事例だ。



県内1位の十八銀と2位の親和銀が統合計画を発表したのは16年2月。県内貸出金シェアが7割を超える再編は前代未聞で、市場の独占を懸念する公正取引委員会の審査は長期化した。「銀行都合」か「地域のため」かで大論争になったが、金融庁が強く後押ししたこともあり、19年4月に十八銀とふくおかフィナンシャルグループ(FG)の統合が実現。20年10月に十八親和銀が誕生した。


それ以前の再編は、15年発足の九州FG(肥後銀行と鹿児島銀行)、16年発足のコンコルディアFG(横浜銀行と東日本銀行)とめぶきFG(常陽銀行と足利銀行)など、隣県同士による経営統合が一つの潮流だった。だが、難易度が高い長崎の案件が認可され、それを機に独占禁止法特例法も制定(20年11月施行)されたことで、重複店舗の削減などがしやすい県内合併を選ぶ傾向が強まっている。


実際、21年以降の再編(予定を含む)を見ると、全6件のうち、特例法の初適用となった青森銀行・みちのく銀行の案件など5件が県内合併だ。唯一の例外は、同年10月に福井銀行が福邦銀行を子会社化した再編劇。ただ、これも県内同士である点は共通するほか、両行の支店が1店舗内で営業する「バンク・イン・バンク」店舗の導入やATMの共通化など、コスト削減に向けた手法は似通う。



経営統合へ向け合意した八十二銀の松下正樹頭取(左)と長野銀の西澤仁志頭取
経営統合へ向け合意した八十二銀の松下正樹頭取(左)と長野銀の西澤仁志頭取

八十二銀と長野銀の場合も、過去の合併事例と同様に経費抑制の計画は描きやすい。だが、地域銀の経営に詳しい東洋大学の野崎浩成教授は「一時的な効果で終わってしまうコスト削減は、統合の主たる目的であってはいけない」と指摘する。経営の持続可能性を高めるには、「収益に寄与するシナジーを模索することが欠かせない」(同)という。


一つの解は、ノウハウや知見の共有だ。今回の場合、有力地銀の一角である八十二銀は投資専門子会社や証券子会社など長野銀にない機能を持つ。これを生かし、長野銀の顧客に対して付加価値の高いサービスを提供して収益を拡大することが考えられる。また、再編で先行した銀行グループでは、効率化で捻出した人員を関連会社の収益強化に振り向ける動きも目立つ。


こうしたシナジーを追求するうえでの大前提は、軋轢(あつれき)を生むことなく互いの組織や人材を融合することだ。統合にとどまらず合併まで踏み込む場合、その重要性は一段と増す。野崎氏は「特に大きい方の銀行が懐の深さを試される。相手の良い部分は必ずあるはずなので、それを経営全体に生かすという姿勢が重要になる」と訴える。

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