【眼光紙背】 銀行の異端児、挑戦再び
2025.09.04 04:30
小さな偶然がときに金融史を動かす。破綻した旧日本長期信用銀行(現SBI新生銀行)を、2000年に米ファンドのリップルウッド・グループが買収した。当時CEOのティモシー・コリンズ氏が、東京行きの機内で隣り合わせたシティコープジャパン元会長の八城政基氏と意気投合。八城氏は新生銀社長に迎えられる。
このエピソードは、英紙フィナンシャル・タイムズ東京支局長を務めたジリアン・テット氏の著書「セイビング・ザ・サン」に登場する。長銀問題を検証した濃密なドラマは、金融ノンフィクションの佳作の一つだ。
長信銀3行の”次男坊”として闊達な行風で知られた長銀も、平成金融危機で座礁した。再建請負人となる八城氏は、石油業界などで外資系を渡り歩いた、今でいうプロ経営者の先駆け。取材した筆者も”ダメ出し”をされた記憶がある。名門銀行をどう立て直すか、こちらの興味を見透かされたのだろう。「全く新しい銀行を作りたいんだよ」。強い口調で諭された。
実際、八城氏は米国流の経営手法を導入し、インド企業のシステムでコストも削減。銀行界の慣行を確信犯的に無視する改革は軋轢も生むが、新規株式公開(IPO)を果たし復活を印象付けた。
だが、物議を醸した瑕疵担保条項(価値が下落した債権の国への買い取り請求)の期限が切れると勢いは止まった。トップを一度退いた八城氏が再登板するも、傾いた経営は戻らない。異端の銀行はまた冬を迎える。
雌伏の時を経て金融界の新勢力、SBIグループのもとで再出発。収益力が戻り、預金量はメガ地銀に肩を並べた。懸案の公的資金も完済。今年7月に再上場を申請した。
再建のタクトを振るのは、SBIホールディングスの北尾吉孝会長兼社長だ。八城氏をも超えるカリスマ経営者が描く構想は、地域銀行と連なる「第4のメガバンク」。今度こそ”新生”を果たせるのか、目が離せない。
(編集委員 柿内公輔)
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