【推薦図書】『「一人で生きる」が当たり前になる社会』(荒川和久・中野信子著)
2025.05.16 04:30
【推薦者】全国労働金庫協会専務理事・西村 良隆氏
「感情主義」への憂虞
成熟化に伴い、「一人で生きる」を選択するヒトが増える社会を考察します。
第7章「怒りや憎しみをベースとする『感情主義』」。「ズルしたヒトを罰したい」感情はヒト特有、生来のもの。悪人が制裁を受けるのを見たいという欲求が達成されると、幸せを感じ快楽を得るホルモンであるドーパミン濃度が上がるそうです。
社会問題化している誹謗(ひぼう)中傷。その根源は「快楽の追求」です。ゴキブリなどの害虫をたまたま目にして駆除するという受け身のものではなく、「駆除する」という快楽を目的として猛然と害虫を探す。不正、不適切、チート……。なんでもいい、そんな行為をした者をたたくために、わざわざ自分を不快にさせる情報をネットで探す。不快水準が高ければ高いほど、自らたたいたり、誰かにたたかれている姿を見て快楽の度合いを上げていく。
やっかいなことは、不正をたたくことを正義とする「共感」が形成されること。自分で言語化できない感情を巧みに表現できるヒトに共感し時に妄信する。コミュニケーションにおける「共感」はたいへん尊いものですが、感じ方はいろいろのはず。立ち止まり、「本当にそうなのか」と考えること、小さな違和感を大切にしたいと思います。
(ディスカヴァー・トゥエンティワン、税込み1100円)