【眼光紙背】「社長もいい年」は禁句か

2025.03.06 04:30
眼光紙背
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普段、デスクとして編集業務にあたっていると、事業承継ニーズの高まりと、それに応えんとする金融機関の奮闘ぶりが目に留まる。その際、どうしても立ちはだかる繊細な問題があるようだ。


ある地域銀行の行員には「今も悔やまれる」失敗談がある。融資先の町工場の経営者が後継者に恵まれず悩んでいた。事業譲渡を持ちかけたが、「まだやれる」となかなか踏み切れない。いらだち、つい叫んでしまう。「だって、社長もいい年でしょうが!」。関係はこじれ、心残りのまま担当を外れることになった。


経営者の引退を左右するのは年齢だけではない。とはいえ、気になる統計がある。東京商工リサーチが行った2024年の「全国社長の年齢調査」によると、社長の平均年齢は過去最高の63.59歳だった。社長の高齢化と業績にも相関関係がみられ、70代以上の増収企業は約44%と最低で、30代(約61%)とは17ポイントの開きがある。赤字企業も70代以上が約26%と最悪だった。


もう一つ注目されるのが、休廃業・解散に陥った企業の社長年齢は70代以上が実に約7割を占めたこと。60代は約20%、50代は約8%と一気に下がる。


東京商工リサーチは「事業承継は50代までがターニングポイント」としたうえで、それまでに事業承継や準備に着手しない場合、「廃業や倒産の可能性が高まる」と警鐘を鳴らしている。だが、50代までに事業承継を意識する経営者はどれだけいるだろう。


最近は「健康寿命」も注目されている。健康上の問題で日常生活を制限されずに過ごせる期間だが、男性の場合は72.57歳(厚生労働省の22年推計値)。実際は60代でも健康不安を抱える経営者も少なくないはずだ。


いずれにせよ、「外部の支援体制の必要性も増している」(東京商工リサーチ)のは確か。オーナー社長の引き際は難しい。ならばこそ、伴走する金融機関の出番。そっと背中を押したい。


(編集委員 柿内公輔)



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