【眼光紙背】「税」に向き合う主権者に
2025.01.16 04:30
文明の歴史は税の歴史でもある。ローマ帝国は間接税や相続税に相当する税制をすでに有していた。ただその見直しには皇帝ですら悩む。塩野七生氏の大作「ローマ人の物語」に詳しいが、主権者はあくまでローマ市民。皇帝は政治を託されたに過ぎなかった。
先の衆院選で躍進した国民民主党は、年収で所得税が発生する「103万円の壁」の撤廃を前面に掲げた。税制見直しが主権者を揺り動かした国政選挙は過去にもある。1998年の参院選は橋本龍太郎首相(当時)の恒久減税をめぐる発言のぶれが災いし、自民党は惨敗した。
一方、日本では痛税感を厭う国民性もあり、税率を上げるか否かという議論に収斂しがちだ。税制が硬直化する一因にもなる。
その代表が消費税。回顧されるのが、6年前の8%から10%への税率引き上げだ。目的たる社会保障の財源よりも、引き上げの賛否に議論が集中。挙げ句の果て、政府が痛税感を和らげようとポイント還元まで繰り出したものだから消費現場は混乱、税率の実態も不明瞭になった。
「103万円の壁」問題では、非課税枠の引き上げ幅をめぐる攻防ばかりに注目が集まった感がある。国民民主は178万円への引き上げを目指したものの、与党と協議が難航。2025年度税制改正大綱でひとまず123万円に決着した。
それでも数十年そびえ立つ壁を崩した意義は小さくない。「106万円の壁」や「130万円の壁」などさまざまな税の壁も浮かび上がらせた。ネットでも議論が飛び交い、国民の関心を掘り起こしたことは多としたい。
そもそも税とは何か。国税庁のホームページには「みんなで社会を支えるための『会費』といえる」とある。ならば、多くの会員(国民)が納得できる目的と合理的な制度を常に追い求めたい。
身近な税制のあり方を政府任せにせず、自ら向き合う主権者が増える。今年がそんな年になればと願う。
(編集委員 柿内公輔)
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