【推薦図書】『教養としての「半導体」』(菊地正典著)
2024.11.29 04:30
【推薦者】東和銀行取締役常務執行役員・鈴木 信一郎氏
現代の基盤物資を概観する
最近の報道によれば、政府は半導体産業の新たな支援策としてNTT株やJT株など国の保有株式を裏付けに新たな国債を発行して補助金に充てる計画のようである。情報化社会の進展とともに半導体が「産業のコメ」と言われて久しいが、国際社会の緊張感の高まりによって自国の安全保障を左右する戦略物資ともなっている。
本書では、日系大手メーカーで半導体デバイスプロセスに従事した著者により、業界全体の相関図をはじめとして半導体の利用分野や開発の歴史、その構成部品や製造方法、さらには同産業の今後の行方などが私見を交えつつ解説されている。1980年代後半、わが国半導体メーカーは世界の売上高ランキング上位10社のうち7社を占めていたが、その後凋落(ちょうらく)の一途を辿(たど)り2021年時点では僅(わず)か1社となっている。
一方で、スマートフォンに内蔵されるAP(多機能処理チップ)や車載用ECU(電子制御ユニット)、さらには生成AI(人工知能)向けGPU(画像処理装置)の現状などからも、製造装置メーカーや部品サプライヤーを含む半導体産業全般への目配りは金融機関職員にとって大切なアプローチと本書を通じ改めて感じている。
(日本実業出版社、税込み2200円)