【眼光紙背】教育の灯をともすために
2024.10.17 04:30
昨年4月15日、東京芸術大学で一風変わったイベントが開かれた。大学が光熱費高騰による財政難で、練習用ピアノまで一部撤去。SNSでも騒がれ、見かねた客員教授で歌手のさだまさしさんら各界で活躍する関係者が立ち上がった。その名も「電気代を稼ぐコンサート」。さださんもヒット曲を熱唱し、収益が学校に贈られた。
国立大学協会は6月の総会で、物価高などにより財務状況は「限界」との緊急声明を発表。少子化もあり、2024年度は私大の6割が定員割れに陥った。東京大学は9月、20年ぶりに授業料引き上げを決定。追随の動きが広がるとみられる。
家計にも重くのしかかりそうだ。日本政策金融公庫の21年度調査で、高校入学から大学卒業までにかかる費用は、国立大で約743万円、私大理系は約1083万円に上る。高校授業料を実質無償化した自治体もあるが、学校諸経費や塾の月謝など家庭が身銭を切る教育費は多々ある。
今後は意外な懸念事項も指摘される。日本の高い進学率を支える奨学金が、日本銀行の利上げの影響を受けるためだ。国が債券を発行して調達する資金を日本学生支援機構が借り入れ、学生に貸与している。市場金利が上がれば債券の発行コストも上昇し、奨学金の利率に跳ね返る。実際に22年から上昇基調に入っている。
教育資金の手当てに悩む親に、金融機関も手を差し伸べることはできよう。長期金利の上昇を受け、明治安田生命保険は昨年12月に学資保険の利率を引き上げた。支払う保険料は少なくなる。
むろん、学校自身の努力は必要だ。法人化から20年たっても交付金頼みの国立大は少なくない。10月に東京工業大学と東京医科歯科大学が統合して東京科学大が誕生した。前向きな再編や改革は国も後押ししてほしい。
古代ギリシャの哲学者アリストテレスは「国家の運命は、かかって青年の教育にあり」と説いた。その言葉をかみしめたい。
(編集委員 柿内公輔)
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