【推薦図書】『弱い円の正体 仮面の黒字国・日本』(唐鎌大輔著)
2024.10.18 04:30
【推薦者】武蔵大学経済学部教授・大野 早苗氏
円は脆弱な通貨になるのだろうか
8月は波乱のマーケットであった。急激な円高の進行の背景として円キャリー取引の巻き戻しが指摘されているが、円キャリー取引の膨張の裏側には内外金利差があった。一方、唐鎌氏はかねてより円安の構造的要因を指摘しており、本書はその点に着目している。
日本の貿易収支の赤字化が定着しつつあるが、それを上回る第一次所得収支の黒字により日本の経常収支は黒字を継続している。しかし、投資収益のかなりの部分は本国に還流しておらず、キャッシュフローベースでみたわが国の経常収支はすでに赤字化しているとのことである。
本書はまた、デジタル赤字にも注目している。米巨大IT企業が提供するプラットフォームサービスなどへの支払いは年々増大しており、インバウンド(訪日外国人)の増大による影響をかき消している。
一時的に円高に戻ったものの、構造的要因を考慮すれば、円安は恒常的現象として継続するかもしれない。著者は円安対策の処方箋(せん)として対内直接投資の推進を推奨しているが、これも問題がないわけでもない。国際収支の構造変化は日本経済の脆弱(ぜいじゃく)性を反映したものでもあり、それが円安の根幹にあるならば、あらゆる方策を駆使して対処すべきであるように思う。
(日本経済新聞出版社、税込み1100円)
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