ポストコロナの事業再生 中小企業基盤整備機構中小企業活性化全国本部 統括事業再生プロジェクトマネージャーに聞く
2024.12.27 09:00
ポストコロナの時代-。2024年3月、経済産業省、財務省、金融庁の3省庁連携による「再生支援の総合的対策」が示された。同年4月には実質無利子・無担保の”ゼロゼロ融資”の返済開始の最後のピークを迎え、国内中小企業・小規模事業者の事業再生が本格化する。中小企業活性化全国本部で統括事業再生プロジェクトマネージャーを務める松田正義氏(67)に事業再生の現状、中小企業活性化協議会の役割などについて聞いた。
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Q.中小企業の事業再生に対する現状認識は。
2020年の新型コロナ感染症のパンデミックの際、国内中小企業・小規模事業者の資金繰り支援が行われ、社会経済の不安を解消するという点では一定の成果はあった。一方で、従来借り入れができなかった企業までを含めて資金供給がなされた結果、過剰債務に陥っている企業が一定数ある。また、社会構造自体が変わったが故に未だにコロナの影響を受けている企業もしかり。日本は少子高齢化社会であり、人手不足によって倒産に追い込まれるケースも増えている。加えて、後継者不足も深刻で経営者の平均年齢が年々上がっているのもその理由からだろう。後継者候補がいる企業が増えてきているという統計があるが、その後継者が、自身が引継ぐ会社の決算状況まで理解しているのか不安なところがある。
金融機関も不良債権処理目線ではなく、「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」や監督指針でも求められている通り、メイン・非メインの別や、プロパー融資と信用保証協会保証付きの別に関わらず事業再生に取り組むことが求められており、もっと力を入れていかなければますます地域経済が疲弊してしまう。

Q.中小企業活性化協議会の役割について。
2022年4月に中小企業再生支援協議会から、経営改善支援センターと統合し、中小企業活性化パッケージの公表を受けて中小企業活性化協議会に改組した。協議会の役割としては、一つには“駆け込み寺”としての機能があり、金融機関や顧問税理士等による「事前相談」と、経営者が直接相談に訪れる「窓口相談」がある。23年度相談件数(速報ベース)は、過去最多の1万1568件(うち窓口相談6784件)となった。24年度第1四半期(速報ベース)でみても、事前相談1547件(対前年同期比359件増)、窓口相談1956件(同319件増)となっており、再生支援が必要な企業が増えている状況だ。
もう一つは“地域における総合病院”の機能であり、いわゆる3つのミッション(収益力改善支援、プレ再生支援・再生支援、再チャレンジ支援)がある。収益力改善支援は、企業収益に陰りが見えてきた時に行う支援で策定した収益力改善計画をもとにモニタリングをこまめにしながら出口対策を探る。日頃からモニタリングをしっかり行うことがモラルハザードを引き起こさないためのポイントになる。プレ再生支援は、3年間で黒字化をめざすイメージだ。
Q.再チャレンジ支援にも力を入れています。
再チャレンジ支援は、23年度実績は対前年で322件増の864件に急増し、24年度も第1四半期だけで254件と対前年同期で76%増えている。まだまだ氷山の一角だとみている。24年4月がコロナ関連融資の返済開始の最後のピークだったこともあって、返済開始に伴って資金繰りが厳しくなって事業継続を断念するようなケースが増えていると思われる。ここ数年は再生支援に関わる計画策定件数が毎年1千件程度で進捗しているが、24年度は再チャレンジ支援の実績がそれを上回るペースの勢いになっている。
再チャレンジ支援とは、円滑な廃業を目指す取り組み。もちろんこれまでにも廃業を支援することについての議論は存在した。しかし廃業を進めるにあたっては、専門的な知識やサポートがないために、廃業を決断できない経営者も相当数存在する。また、無理な事業継続の結果、被害者を増やすという側面があり、例えば役員借入金は代表者個人の資産という前提で“みなし資本”とみなすのが金融機関のルールになっているが、実際にはノンバンクや消費者金融、親戚から借りているケースもある。(会社経営が)赤字であるにも関わらず、「お金さえつぎ込めば何とかなる」と考えている経営者もたくさんいる。円滑な廃業ができなければ何が起こるかというと、最終的には従業員や家族にとっては悲劇になってしまう。最悪の場合、自宅を手放さなくてはならなくなり、そうなれば子どもたちや家族は引っ越ししなければならなくなる。中学生や高校生の子供がいた時に、果たして社長としてそれでいいのですかと思う。
経営者には3つの責任がある。「家族を養う」「従業員の生活を守る」「取引先のサプライチェーンを維持する」。私は、経営者に対してそれらが守れないのであれば廃業を考えなさいと言ってきた。円滑な廃業をすれば、従業員に解雇予告手当を支払うこともできる。それによって従業員への再就職に向けた最低限の責任を果たすことができると思う。
Q.24年度の支援の特長は。
24年3月に経済産業省、財務省、金融庁の3省庁で「再生支援の総合的対策」が出された。これは資金繰り支援から軸足を再生支援に取り組むことへ政策転換したもので、政府の危機感の表れでもある。総合的対策では、コロナ資金繰り支援で保証協会の保証付き融資の割合が高まっていることが背景で、保証協会の主体的な取り組みが欠かせない。民間金融機関においても、メイン先・非メイン先に関わらず事業再生支援の強化が求められている。活性化協議会としても、よろず支援拠点や事業承継・引継ぎ支援センター、金融機関、信用保証協会、中小企業診断士、弁護士、会計士、顧問税理士等と連携しながら地域経済の活性化を図っていきたい。
Q.事業再生プロジェクトマネージャーの役割について。
事業再生プロジェクトマネージャーの役割は大きく2つあり、全国47都道府県にある協議会に赴いて現場スタッフへの助言など拠点運営や個別案件の相談・進捗をサポートする業務と、現場の好事例を各拠点にフィードバックする等、全国47協議会の活動実績の分析や評価を行う業務がある。
この仕事は、金融機関等での企業再生の実務経験や公認会計士、弁護士、中小企業診断士、税理士等で再生経験のある人にとってはやりがいを感じることができる。私の個人的な考えになるが、私的整理においては柔軟な発想が求められる局面は多く、必ずしも正解がひとつとは限らない。企業再生の仕事は、事業に惚れこまないとなかなかできない仕事で、自分よりも中小企業者を優先して考える「利他の心」が求められる。また、自身で判断できない、意見が異なる場面にたくさん直面するので、「知らない」「分からない」と伝える”誠実さ”が求められる。加えて、「聞く力」「伝える力」といったコミュニケーション能力も重要になるが、自己実現できる仕事だと感じている。
(企画・制作=日本金融通信社取材局)
松田正義(まつだ・まさよし)
独立行政法人中小企業基盤整備機構
中小企業活性化全国本部
統括事業再生プロジェクトマネージャー
1981年群馬銀行入行。ニューヨーク支店で湾岸戦争と不動産不況、東京支店でバブル崩壊後の大口取引先の対応、審査部で大口メイン先の担当審査役として事業再生に関与。その後、支店長、リスク統括部長、コンプライアンス部長を歴任し退職。関連会社で役員を歴任。2015年7月より2023年3月まで群馬県中小企業再生支援協議会(現活性化協議会)の統括責任者。2023年4月より中小企業活性化全国本部の事業再生プロジェクトマネージャー、2024年1月より副統括事業再生プロジェクトマネージャー、2024年4月より現職。