【推薦図書】『あの戦争になぜ負けたのか』(半藤一利・保阪正康・中西輝政・戸高一成・福田和也・加藤陽子著)
2024.06.14 04:30
【推薦者】信託協会専務理事・川嶋 真氏
敗戦が遺した教訓
本書は、太平洋戦争の敗戦をテーマにした座談会での半藤氏ら6人の発言を収録したものである。
日米開戦に関して、日本海近海で米艦隊を迎え撃つ漸減邀撃作戦が軍令部の主張だったが、山本連合艦隊司令長官は真珠湾奇襲を主張し、それが方針となった。ただ、その決定の過程では、議論を詰めた形跡はなく、互いに嫌っていたこともあり永野軍令部総長と山本長官とがじっくり話すこともなく、真珠湾奇襲をさせないなら山本長官は辞めると言っている、といった感情的やり取りまであったという。また、軍令部参謀と連合艦隊参謀との交流があまりなかったことも指摘されている。
人事配置に関し、陸大成績上位者が作戦や情報参謀になり、下位者が補給担当の兵站(へいたん)参謀になっており、戦争では補給や輸送が死命を制するという発想が欠落していた点も指摘されている。
今日でも、人間関係、感情論や大幹部の思いが重大な局面での冷静で緻密(ちみつ)な議論を阻害したり、企画部門と現場との意思疎通がなかったり、成績で配属先を決めたり、目立たないが重要な部署に優秀人材を配置しなかったり、といったことが問題の原因となることがままあるのではないか。本書は他にも様々な指摘をしており、今日の我々に重要な教訓を与えてくれる良書である。
(文春新書、税込み880円)