広報のきほん。 第1回 ただ情報を流すだけではない

2024.04.02 04:25
広報のきほん
メール 印刷 Facebook X LINE はてなブックマーク

昨今、消費者が企業を見る目は厳しくなってきています。SNSやオウンドメディアで情報がすぐ広まるので、企業は誠実な姿勢や配慮をしっかり示す必要があります。そのような社会で、企業の良いイメージを保つためには、経営戦略やサービス内容を正しく伝えるだけでなく、社会とつながる一貫したメッセージを伝えて信頼を得ることが大切です。


ここで重要になってくる役割が「広報」です。


他の業界と比べて、世の中から信頼性と透明性が強く求められる金融業界も広報の重要性は高まっています。金融機関が提供する金融商品やサービスは、顧客である生活者の資産や生活、将来のライフプランに大きな影響を与えます。適切なコンプライアンス(法令遵守)体制のもと、透明性を保ちながら親しみやすい情報を提供することは、顧客に選ばれる企業となるために不可欠です。


本連載では独立系の広報コンサルタントとして金融ベンチャーを始めとしたさまざまな企業をサポートしてきた筆者が、主に広報1年生を対象に「広報の基本」をお伝えします。広報の視点は他のセクションでも役立ちます。特に経営層や事業開発担当者にとっては、見せ方やタイミング次第で世の中への響き具合が変わります。



「広報」ってなに?


「広報」という言葉。耳にしたことがあるけれど、実際にはどんな仕事なのか、その役割や意義について詳しく知る機会は少ないのではないでしょうか。


そもそも広報は、19世紀末から20世紀にかけてアメリカで発展した「Public Relations」という概念がルーツです。「PR」と省略されますが、直訳すると「公衆との関係」です。公益社団法人日本パブリックリレーションズ協会の定義では、「組織とその組織を取り巻く人間(個人・集団)との望ましい関係を創り出すための考え方および行動のあり方」とされています。


広報の仕事を簡単にいうと、「会社や組織が持っている情報やニュースを、社外=社会へ伝えること」です。情報整理をしながら、プレスリリースの作成・配信、メディアとのコミュニケーション、記者会見の実施、イベント開催、自社SNSの運用など、 さまざまな手法を組み合わせながら計画的な広報活動を行います。


ここでお伝えしたいのは「ただ情報を流すだけ」の仕事ではありません。誰に伝えるか、どのように伝えるか、伝えるためのリソースや体制は整っているのか、世の中の時流やステークホルダーの状況はどうか、などのさまざまな変数を考慮しながら計画実行する戦略的な仕事でもあります。


「PR」というと、テレビCMや雑誌の広告、SNS広告など、企業が自社の製品やサービスを積極的にアピールするイメージを持つ方が多いと思います。「広告」と「広報」はしばしば混同されます。



「広告(Advertising)」は、企業が製品やサービスの販売促進を主な目的として、消費者や顧客に向けて情報を直接発信(宣伝)する活動です。メッセージを自由にコントロールできるのが特徴で、メディアが提供する有料の枠を利用します。


「広報(Public Relations)」は、企業の評判・信頼を高めポジティブなイメージを維持していくことを目的に、社会との良好な関係を築く活動です。社会からの関心が高く信頼性の高い情報を求めるメディアを通じて、基本的には費用をかけることはなく情報を発信します。


多岐にわたる「〇〇力」


広報担当者に求められるスキル・視点は多岐にわたります。広報担当者は、社内外に溢れるたくさんの情報の中で、大切な情報を見つけ出し、社会の動きに合わせてその情報を編集したり、適切なチャネルを通じて発信します。広報担当者が持つスキルと視点が、企業のメッセージを形づくり、信頼や評判を作っていくとも言えるかと思います。



<広報に求められるスキルや視点 >


情報整理力: 経営情報や社内外の情報を適切に洗い出し、わかりやすく論理的に整理したり、世の中のニュースやトレンドにアンテナを立て新しい情報を収集する力。


表現力(書くことや話すこと): 会社のありたい姿を正確に把握し、整理した情報をわかりやすく伝える力。言葉選びや文章の書き方、話し方、ブランディング、ストーリーテリングなど。


分析力: 実施した広報施策の振り返りと、次の施策をどのように改善していくかを分析する力。


コミュニケーション力: 記者や編集者、顧客、従業員、株主、地域社会など、企業に関わるさまざまなステークホルダーと良い関係を築く力。相手の立場や視点を理解しながら調整する必要がある。


リスクマネジメント力(危機管理能力): 経営上のトラブルが起こった時に、企業が抱える潜在的なリスクを事前に把握して、対外的な評判や信頼の損失を最小限に抑える力。


広報業務を通じて得られるこのようなスキルや視点は、経営企画や営業、マーケティングなど、広報以外の仕事にも役立ちます。


次回は、最近増えているご相談事例をもとに、広報が機能しやすい組織について解説します。


 



konowa代表取締役/広報コンサルタント 黒﨑 美穂(くろさき みほ)氏


東京都出身。1998年早稲田大学商学部卒業。オリエンタルランドや大手商社系不動産デベロッパーにて経営企画室や広報部に従事。2016年よりフィンテック業界へ転向し、コインチェックなどスタートアップ企業のインハウス広報として広報立上げやメディアコミュニケーションに従事。2018年独立、企業向けの広報コンサルティングを行う株式会社konowa設立。金融業界を中心に60社超の相談実績を持つ。ビジネス経済・金融・IT系他のメディアとのつながりを基盤に、多くの支援先企業でTVや新聞などのメディア報道を実現。

すべての記事は有料会員で!
無料会員に登録いただけますと1ヵ⽉間無料で有料会員向け記事がご覧いただけます。

有料会員の申し込み 無料会員でのご登録
メール 印刷 Facebook X LINE はてなブックマーク

関連キーワード

広報のきほん

おすすめ

アクセスランキング(過去1週間)