Nikkin金融講座 金融入門(22)さいごに~金融を取り巻く環境は「激変」が常~
2024.03.22 04:01
◆金融政策変更は最大の波乱要因
金融を取り巻く環境は、常に揺れ動いています。なかでも金利の変動は、金融機関の経営に大きく影響します。日本銀行のマイナス金利解除に伴う「金利の復活」は、金融機関にとって重要な転換点となります。“ゼロ金利”を脱して、真の意味で「金利ある世界」に戻るまでには当分時間がかかりそうですが、金融機関にとって最悪の収益環境だったマイナスの世界がようやく終わりを告げました。
他国の中央銀行であっても、主要国での政策変更はリスク要因になります。マイナス金利の国内債券に投資できなくなった邦銀は、米国債への投資を膨らませましたが、米連邦準備制度理事会(FRB)が2022年以降に急ピッチの利上げに転じたことで債券価格が下落し、多額の含み損を抱え込みました。金融のグローバリゼーションが進んだことで、ある国の市場で生じたイベントが他の国の市場に伝播しやすくなっています。
◆金融規制の厳格化でコスト増大
現在は国境を越えたクロスボーダー取引が当たり前の時代です。技術革新によって情報の伝達スピードが飛躍的に高まり、世界中のマネーが瞬時に流入することもあれば、逆に逃げ出すこともあります。足元の日本株急騰も海外投資家の資金流入が主因です。「地政学リスク」は金融関係者が口にする頻出ワードですが、この言葉を世に広めたのは元FRB議長のアラン・グリーンスパンです。国際情勢に鑑みて金融政策を議論する際に使い始め、それがメディアを通じて定着しました。
国際的な共通ルールや各国当局の制度変更も、金融機関の経営に影響を及ぼします。「バーゼルⅢ(スリー)」と呼ばれる自己資本比率規制は、銀行による過度なリスクテイクを防ぐことが目的です。銀行の自己資本が多ければ多いほど大きな損失に耐えられ、金融危機を未然に防ぐことができます。そのため、金融危機が到来するたびに規制は厳しくなっており、金融機関は新たな規制に対応するために多大なコストを強いられています。
例えば、以前は銀行の損失額の穴埋めに公的資金を用いる「ベイルアウト(救済)」が主流でしたが、08年のリーマン・ショック後は株主や劣後債の保有者も破綻処理費用を負担すべきだという「ベイルイン」の視点が重視されるようになりました。
◆将来を左右するデジタル戦略
金融業は、形のある食品や工業製品などを取り扱う業種とは異なり、預金や為替などの取引記録を紙の台帳に記帳し、その情報を管理することが本質的な仕事です。そのため、システム化との相性が良く、かつては他の産業に先駆けて機械化を進めてきました。
銀行が勘定処理を合理化するためにコンピューターを導入し始めたのは、1950年代後半です。本支店間をオンラインで結ぶ勘定系システムは、60年代に登場しました。三井銀行(現三井住友銀行)が65年に国内初のオンラインシステムを稼働させ、60年代後半には他の都市銀行も追随。70年代に入ると、地方銀行や信用金庫にも導入が広がりました。
ただ、システム化との相性の良さは、IT(情報技術)にたけた異業種企業を銀行業参入に駆り立てる動機の一つにもなってきました。2000年以降、金融ビッグバン(金融制度改革)による金融自由化の波に乗って、実店舗を持たずにインターネット上のみで取引を行うネット銀行などの新興銀行が誕生しました。リーマン・ショック以降はフィンテック企業が台頭し、スマートフォンアプリを通じて金融サービスを提供するデジタル銀行が増えつつあります。
今後もデジタル技術の進展に伴って、新たなサービスの登場が予想されます。当面の注目は生成AI(人工知能)の応用でしょう。いずれにしても、手間のかかる対面取引から手軽な非対面取引へのシフトは不可避であり、今後は各金融機関のデジタル戦略が競争環境を左右する最大の要因となりそうです。
日本金融通信社編集局 国定直雅
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