Nikkin金融講座 金融入門(20)金融危機は形を変えてやってくる(1)

2024.03.08 04:01
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 ◆リスクが膨らむと危機到来

我々が資産運用を行う際には、「市場リスク」「信用リスク」「流動性リスク」という3つのリスクが潜んでいます。市場リスクとは、株価、為替、金利などの変動によって損失を被るリスクです。信用リスクとは、投資先の経営悪化や倒産によって、保有資産の価値が下落するリスクを指します。そして、流動性リスクとは、金融商品の売買が極端に少なくなって取引が成立せず、売りたい時に売れないリスクです。

 これらのリスクは、不特定多数の顧客から受け入れた巨額の預金を運用している銀行にも当てはまります。さらに、銀行には「オペレーショナル・リスク」も存在します。役職員による事務ミスや不正、システム障害、災害などによって損失が生じるリスクです。日本でバブル経済がはじけた後に発生した1990年代の金融危機は、信用リスクが最大の原因でした。バブル期に貸し込んだ不動産融資が焦げ付いて大量の不良債権を抱え込み、銀行が相次ぎ経営破綻(はたん)しました。

 2007年以降に米国で発生した金融危機では、複数のリスクが絡み合って被害が拡大し、世界中に金融不安が広がりました。最初の発端は、返済能力が低い人でも借りられる住宅ローン「サブプライムローン」の焦げ付きでした。次いで、その住宅ローン債権を組み込んだ証券化商品を在庫として抱えていた金融機関が経営危機に陥りました。そして、巨大金融機関の破綻によって企業にお金が出回らなくなる信用収縮が起こり、実体経済が大きな打撃を受けたのです。

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 ◆1990年代の「ウルトラC」

金融機関はひとたび信用に傷がつくと、預金が流出して資金繰りがつかなくなり、経営破綻に追い込まれます。預金以外では、金融機関同士で短期の資金を貸し借りするコール市場が、主な資金調達の場となります。しかし、経営難のうわさがたつと、コール市場での資金調達も困難になります。1997年に破綻した北海道拓殖銀行の場合、「拓銀レート」と呼ばれる上乗せ金利を付けなければ貸し手が現れない状態でした。

 1990年代に危機対応に当たった元日本銀行幹部に、当時の裏話を聞いたことがあります。銀行として戦後初めて経営破綻した兵庫銀行の救済に奔走したエピソードです。経営不安からコール市場での資金調達が行き詰まりましたが、コール取引の担保として一般的な国債は既に使い切っていました。そこで、兵庫銀が保有していた持ち合い株式の株券を日銀に運び込み、それを担保にして兵庫銀行に資金を融通するよう複数の都銀を説得したそうです。金融界の常識からはかけ離れた異例の措置であり、「危機対応ゆえのウルトラCだった」と述懐していました。


 ◆新時代の取り付けは高速

昨年3月に米国で経営破綻したシリコンバレーバンクでも預金流出が起こりました。しかも、預金流出が始まってから破綻に至るまでの期間はわずか数日という突発的な危機でした。シリコンバレーバンクの場合、主に新興企業やベンチャーキャピタルから大口預金を集めていたという特殊性はありますが、SNS(交流サイト)を通じて信用不安が増幅し、オンライン上で「バンクラン(取り付け騒ぎ)」が起きたのです。デジタル時代を象徴するような破綻劇でした。

 ソーシャル・メディアの普及と金融のデジタル化を背景に起きた“高速バンクラン”に衝撃を受けた主要国の金融当局は、新時代のリスクにどう対処すべきか議論を始めました。舞台は、バーゼル銀行委員会という国際組織です。日本を含む28カ国・地域の金融当局が加盟しており、銀行を対象とした国際金融規制を話し合う場です。金融危機を封じ込めるうえで重要な役割を果たしています。次回は、この組織の活動内容や国際金融規制の変遷について紹介したいと思います。

 日本金融通信社編集局 国定直雅

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