Nikkin金融講座 金融入門(18)年金について知ろう! あきらめや不安のその前に(1)

2024.02.23 04:01
金融入門
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 ◆トンチン年金との共通点

若年層にとって、公的年金への不信感は根強いものがあります。老後の生活設計のなかで公的年金をどのように位置づけているかを聞いた世論調査(2018年、内閣府)では、30代のうち「全面的に公的年金に頼る」との回答はわずか2.5%でした。これに対し、個人年金や貯蓄などを組み合わせて備える必要を感じている人は88.4%に上りました。老後資金に不安を抱く理由は、既に年金を受給している世代と比べ、自分たちの世代は将来十分な恩恵が受けられないという認識があるからでしょう。

 そうしたなか、トンチン年金という民間商品が注目を集めています。17世紀のイタリアの銀行家ロレンツォ・トンティが考案したものです。どれほど長生きしても、生きている間はずっと年金を受け取れる仕組みのため、長寿リスクに備えるには最適の商品です。ただ、保険料は相対的に高く設定されているため、実際に加入できる人は限られるようです。

 トンチン年金の長所は、実は公的年金とほぼ同じです。どちらも、一定の年齢まで長生きしなければ受取総額が支払総額を下回るデメリットはありますが、終身年金なので長生きすればするほど得をします。そのため、老後の生活設計を考える際は、やはり公的年金をよく知ることが第一歩となります。

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 ◆時代錯誤の「モデル世帯」

年金支給額は毎年4月に改定されます。2024年度の受給額は、夫婦2人のモデル世帯で月23万483円です。国が標準とみなすモデル世帯は、夫が平均的な収入で40年間働き、妻は40年間ずっと専業主婦というケースです。しかし、このような家庭像はもはや時代遅れです。22年の男女共同参画白書によれば、共働き世帯(1191万世帯)は専業主婦世帯(430万世帯)の2.8倍。国は、モデル世帯の定義を早急に見直すべきでしょう。

 共働き世帯の場合、モデル世帯よりも年金額を多く受給できる可能性が高くなります。モデル世帯にはない、妻の厚生年金が加わるからです。ただ、モデル世帯の場合は遺族年金が手厚いため、夫婦のどちらかが死亡した後も年金の減少幅は抑えられます。一方、共働き世帯は夫婦の生涯賃金がほぼ同じ場合、どちらかが死亡すると年金がほぼ半減するので、その点については注意が必要です。

 単身世帯も増えています。20年国勢調査では、生涯未婚率が男性は28.3%、女性は17.8%となり、過去最高を記録しました。単身世帯の場合、2人分の年金で暮らす夫婦に比べ、1人当たりの生活費が割高になるため、それを踏まえた生活設計をする必要があります。


 ◆受給開始を遅らせる意義

公的年金の支給開始年齢は原則65歳です。世間では「将来は70歳にならないと年金をもらえない時代がくる」という漠然とした不安を抱く人も少なくありません。しかし、一律に支給開始年齢が引き上げられる可能性は低そうです。既に制度上、一定の範囲内で支給開始年齢を自由に選べる仕組みになっているからです。

 現在、受給開始年齢は60~75歳の間で自由に選択できます。65歳を基準にして、1年繰り上げるごとに年金額は4.8%減額される一方、1年繰り下げるごとに年8.4%増額される仕組みです。70歳まで繰り下げると年金額は1.42倍、75歳なら1.84倍になります。長寿リスクに備える保険機能を重視するのであれば、繰り下げ受給を検討する余地は十分にありそうです。

 企業年金は基本的に有期であり、貯蓄も毎月取り崩していけばいずれ底をつきます。それに対し、公的年金は生きている限り確実に入ってくる収入なので、生涯受け取り続ける受給額を底上げすれば、子どもや孫に経済的負担をかける心配は少なくなります。世帯の貯蓄が多い場合や、65歳以降も働き続けて一定の収入がある場合は、年金の支給開始時期を遅らせることも有力な選択肢になりえます。

 日本金融通信社編集局 国定直雅

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