Nikkin金融講座 金融入門(16)人々を突き動かす「免税」の魔力(1)

2024.02.09 04:01
金融入門
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 ◆「少額」に込められた願い

1月から新しいNISA(ニーサ)がスタートしました。正式名称は「少額投資非課税制度」です。制度が恒久化されたうえに、非課税で運用できる投資額もぐっと増えて最大1800万円になりました。年間では「つみたて投資枠」120万円と「成長投資枠」240万円の計360万円まで投資が可能です。この非課税枠をフル活用すれば、住宅購入や老後のための十分な貯えになりそうです。

 投資枠が拡充された結果、正式名称の冒頭に冠した「少額」の二文字に違和感を覚える人がいるかもしれませんが、この二文字には政府のある思いが込められています。それは「(国民の資産形成は)積み立て投資をメインに据えてほしい」という願いです。一度に多額を投資すれば、市況次第で大きな儲けが出るかもしれませんが、同じくらいの確率で損失が膨らむリスクもはらんでいます。

 一方で、毎月コツコツと少ない額を分散投資する方法なら、長期的にみてリスクを抑えられることが分かっています。制度上、その意図が色濃く表れているのが、つみたて投資枠の対象ファンドです。金融庁お墨付きの投資信託やETF(上場投信)に限られています。つまり、官僚が投資初心者でも安心して投資できる商品を選別してくれているわけです。なぜ、そこまでするのでしょうか。

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 ◆金融庁も驚いた「神改正」

金融庁は30年来、国民の金融資産を「貯蓄(預貯金)から投資(株式・債券・投信)へ」と導く政策を掲げてきましたが、安全性の高い預貯金を好む国民性は不変でした。その流れを変える起爆剤となったのが税制です。免税や減税には、人々の行動を大きく変えてしまう力があります。本来、投信や株式の配当金・売却益などにかかる税率は20.315%ですが、NISAを利用すれば税金が免除されます。

 2014年にNISAが創設され、何度かの制度変更を経て、NISA口座数は2035万口座(23年9月末)に成長しました。その下地のうえに、今回の制度拡充が実現したのです。投資家から「神改正」と呼ばれるほどのインパクトがあり、その“お得感”から投資ブームを巻き起こす可能性を秘めています。

 金融庁にとっても、今回の改正は「まさかここまで(要求が)通るとは。正直、どうして実現したか分からない」(幹部)と驚くほどの内容でした。通常、各省庁の減税案がすんなり通ることはまれです。国税は財務省、地方税は総務省が管轄しており、国や地方自治体の財政難を考慮して簡単には首を縦に振りません。「資産運用立国」のスローガンを掲げる首相官邸や与党の政治的判断も絡まって、奇跡的に実現した満額回答でした。


 ◆「もぐら叩き」で不信感

この千載一遇のチャンスを生かすため、金融庁は投資商品を販売する金融機関に対して厳しい目を向けています。投信は運用会社で作られ、銀行や証券会社などの販売会社(販社)を通じて売られます。販社には販売手数料が入りますが、ともすれば手数料の高い商品を顧客に勧めようとする販社に対し、金融庁は根深い不信感を持っています。

 実際、顧客の意向をないがしろにして手数料の高いリスク性商品の販売に走った金融機関を金融庁がとがめても、販社はその商品販売から撤退して他のリスク性商品に軸足を移すという“いたちごっこ”が続いてきました。この終わりのない攻防は、金融庁内の隠語で「もぐら叩き」と呼ばれています。

 銀行では、投信や保険を販売する業務を「預かり資産営業」と呼んでいますが、この事業単体では黒字になっていない金融機関も少なくないようです。今後、マイナス金利政策やゼロ金利政策が解除されて、昔のように融資業務から適正利潤を得られるようになれば、預かり資産業務から撤退する金融機関が出てくるかもしれません。そうなれば、コスト的に採算の合わない対面販売から、オンライン取引へのシフトが加速することになりそうです。

 日本金融通信社編集局 国定直雅

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