実像 コロナ苦境 ともに闘う(中)コンサルで深く経営関与、継続支援が正念場
2021.10.08 04:40
取引先の業績回復に向けて、資金繰り支援にとどまらないコンサルティング業務が重要局面に入った金融界。ポストコロナも見据え、経営改善や事業再生に本腰を入れる動きが全国で広がる。
90項目の「改善策」
「地元出身者として、蔵王温泉を活性化させたい」。きらやか銀行本業支援戦略部の松田茂久主管が毎週2、3日、足を運ぶのは山形市内の旅館「ZAOセンタープラザ」だ。団体客を中心に年間1万5000人を集客する地域の”顔”だったが、コロナ禍で需要が消失。集客回復へ3月から伴走型の経営支援に乗り出した。
新たな事業計画策定では、強みなどをSWOT分析し社長や従業員から意見を収集。8分野・約90項目の経営改善プロジェクトを作った。Wi‐Fi環境の整備や日帰りプランなど個人客を呼び込む工夫を盛り込んだ。
すぐに実行し8月末でほぼ完了。「手の届かない所までアドバイスしてもらった」と舩見勝社長。松田主管は「社長や従業員の皆さんからの感謝がモチベーション」と話す。今後も事業再構築補助金を使った「ワーキングスペース新設やそばカフェ」を構想。通年型観光施設を目指す。
鹿児島県薩摩川内市の自社工場で海藻・水産冷凍食品を製造する「ハクア食品」の下西金衛代表取締役は危機感を募らせていた。「出荷に必要な下処理済みの原料在庫が12月にも尽きるかもしれない」。委託先の下処理工場が立地するベトナムのロックダウン(都市封鎖)の影響を受けたためだ。
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全国展開の団体から受注する同社にとって生産能力の低下は経営を左右する問題。低価格で下処理が可能な国内事業者は限られるなか、支援の最前線に立つ鹿児島相互信用金庫は取引先1社の紹介にこぎ着けた。「悩みを打ち明けてもらったからには全力でサポートしたい」と上村豊彦・川内中央支店長が本部に相談して引き合わせた。協議は近く最終段階に入る。
本部・営業店一体で
コロナ対応融資先に対する継続支援には、本部専門部署などのハンズオンによる経営改善サポートが欠かせない。静岡銀行企業サポート部は、700先に関して営業店と課題を共有し、同行訪問などを通じて集中的に支援。抜本的な事業再生が必要な取引先に対しては、法的整理や私的整理、再生型M&A(合併・買収)、エグジットファイナンス、転業・廃業先、外部人材や事業譲渡先とのマッチングなど多種多様な手法で支える。
「業種に関わらず一番は企業経営の根幹となる売り上げアップが重要」。大垣西濃信用金庫は、ビジネスサポート部が「打開策を一緒に考える」。新商品開発などをサポートし、メディアへのプレスリリースによるPRまで担う。飲食店はこの約半年で6件を支援した。
浜松いわた信用金庫は、21年度から営業店と本部に配置する「伴走型支援担当者」を約10倍の約130人体制に増員。リストアップした約1600社の伴走支援に当たる。
企業結び、雇用守る
新型コロナで困っている企業同士のニーズを結ぼう――。金融機関の持つ外部機関や情報のネットワークを使って地域の雇用を守ろうとする動きもある。
ロイヤルパインズホテル浦和は、コロナ禍で事業活動の一時的な縮小を余儀なくされ、従業員の雇用維持が経営課題に浮上。埼玉県信用金庫は、県雇用対策協議会や埼玉労働局を通じて、在籍型出向の支援機関である産業雇用安定センターを紹介した。在籍型出向は雇用を維持した上で社員を派遣するため、人件費の削減が期待できる。
埼玉県信金が橋渡しをし、受け入れ先の一般企業との間で成約。その後もワクチン接種に関わる医療機関や地方のリゾートホテルなど、約1カ月間で4社12人の在籍出向が決まった。制度活用に取り組んだ管理部の葛山直樹主任は「別業種の仕事を経験することは、ホテルでの接客サービスにも良い効果が期待でき、ホテルとしても同様の危機に備える選択肢が増えた」と語る。
山口フィナンシャルグループの子会社YMキャリアも、再就職支援事業を積極化。コロナの影響で事業縮小や撤退する企業と、人材確保が必要な企業をマッチング。特に飲食、製造、観光宿泊業などで実績が出ている。
コロナ禍の影響は事業規模や業種で異なるだけにいかに経営内部に入り込み、「顧客を知る」ことができるかが求められる。そのための情報や成功事例の共有も有効だ。金融庁設置の本業支援のノウハウを共有する地域金融機関専用プラットフォームにはこれまで162機関394人が登録。組織を超えた知見は全国のバンカーが生かせる。打撃を受けた地域経済底上げへ正念場を迎える。
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