マネーロンダリング対策とは?具体例についても解説

2023.11.30 16:40
マネロン対策
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マネーロンダリング対策とは、企業や金融機関などがマネーロンダリングに手を貸すことのないように講じる対策です。対策にあたっては、マネーロンダリングの発生するリスクのあるポイントや危険度を把握し、対応を行うことが一般的です。反社会的組織やテロ組織が不当に金銭を得ることを防ぎ、自社が巻き込まれないように対策を講じます。本記事では、マネーロンダリング対策の方法や仕事・認定資格などについてわかりやすく解説します。


マネーロンダリング対策とは


違法行為によって得た金銭を、合法的な金銭に交換する行為を防ぐ対策を「マネーロンダリング対策」と言います。「Anti Money Laundering(アンチ・マネー・ロンダリング)」の頭文字を取って「AML」と呼ぶこともあります。


そもそもマネーロンダリングとは、反社会的組織をはじめとする犯罪組織が、不当に得た金銭に対して行うものです。詐欺や汚職・横領などによって得た金銭は「汚れた金」などと呼ばれ、不用意に使用すれば、足取りや犯罪行為が露見してしまうかもしれません。


そのため、犯罪行為によって得た金銭はマネーロンダリングによって使用できる金銭に替えられます。このことから、マネーロンダリングは「資金洗浄」とも呼ばれています。


マネーロンダリングには以下の3つの段階があります。


・配置:汚れた金を銀行口座などのシステムに入れる


・階層化:追跡を困難にする


・統合:綺麗になった金銭を使用できるようにする


配置とは、金銭の出どころをわかりにくくすることを目的に、汚れた金を他人の銀行口座などに入れることを指します。また、不動産への投資やギャンブル・負債の返済などに使うこともあります。


階層化は捜査機関による追跡を困難にするための段階です。国際的に金銭を転々と移動させるなどの例があります。


統合とは、綺麗になった金銭を使用できるよう、問題のない銀行口座に入金することを指します。マネーロンダリングが完了すると、その口座からさまざまな用途に使用できるようになります。


マネーロンダリング対策とは、これらの行為を防ぐための取り組みを指します。例えば、預け入れたり振り込んだりした金銭は、違法なものでないか金融機関によって確認が行われています。疑わしい点があればその取引の内容を行った顧客に直接確認するなどして、日々マネーロンダリングへの対策が行われています。


参照:各銀行では、マネー・ローンダリングやテロ資金供与の防止に力を入れています。(全国銀行協会のホームページ)


 


マネーロンダリング対策法とは

マネーロンダリング対策は、麻薬の取り締まりに関連して行われてきた歴史があります。麻薬の不正販売で得た金銭をマネーロンダリングするのを防ぐため、アメリカを中心にさまざまな取り組みが行われてきました。


1970年にアメリカで制定された「銀行秘密法(BSA・Bank Security Act)」は、金融機関を利用したマネーロンダリングを防止することを目的にできた法律です。金銭の行方を追跡するため、金融機関で一定以上の金額の現金取引を行う際は届出を作成することなどを定めています。


こうした法律を逃れるためにマネーロンダリングの手法が巧妙になって行く中で、マネーロンダリングを明確に犯罪と定める「マネーロンダリング規制法」が1986年に制定されました。銀行秘密法に違反した場合の没収規定を定めることにより、汚れた金の差し押さえがしやすくなるなどの対策が進められました。


その後も、自動車販売業や不動産業を通じたマネーロンダリングを規制するなど、体制がより厳重になっていきます。その中で、1990年に金融犯罪取締ネットワークとして「FinCEN(Financial Crime Enforcement Network)」が設立されました。


1992年には「Annunzio-Wylie AMLAct of 1992」が制定され、疑わしい取引があった際の金融機関の報告が義務化されました。


2001年の「米国愛国者法」は、テロ組織に関連する金銭のマネーロンダリングを防ぐものであると同時に、国際的なテロ組織の資金源を断つことを目的として制定された法律です。口座開設の際の本人確認を義務化するなど、不正な金銭の流れがないか監視が強化されました。また、違反した際の措置を厳しくするための規定も盛り込まれています。


今日では、前述したFinCENをはじめ、FBI(連邦捜査局)やCIA(中央情報局)、FATF(金融活動作業部会)など、さまざまな組織がマネーロンダリングの問題に取り組んでいます。


参照:米国内国歳入庁におけるマネー・ロンダリングへの取組 


参照:マネー・ローンダリング/テロ資金供与対策ハンドブック 


 


具体的なマネーロンダリング対策方法


マネーロンダリング対策として実際に取り入れられている方法を紹介します。


マネーロンダリング対策コンプライアンス・プログラムとは

企業がマネーロンダリングの問題に適切に対応することを目的に設定されたのが「マネー・ロンダリング対策コンプライアンス・プログラム」です。このプログラムは、企業がコンプライアンスを実現するために、以下の対策を行うことが求められます。


・AMLコンプライアンスオフィサーを任命すること


・対策を行うためのポリシーや仕組みを作成すること


・継続的にAMLプログラムトレーニングを行うこと


・サードパーティーによるレビューを実施すること


・顧客の身元や財務状況を調査すること


マネーロンダリング対策KYC

KYCは「Know Your Customer」の略で、顧客の本人確認を指します。銀行口座を開設する時、本当に本人であるのか確認するといった取り組みがこれに該当します。自社の顧客として問題がないか確認することをKYCと呼ぶこともあります。


UBOチェックとは

UBOは「Ultimate Beneficial Owner ship」の略で、最終的受益者という意味合いです。取引における顧客や口座名義人について、想定する相手と最終的受益者が異なる場合に、本来最終的受益者になるべき人物に利益が渡っていることを把握できないケースがあります。


最終的受益者が反社会的組織やテロ組織と関わりがある場合、その利益は犯罪行為やテロの資金源となることがあります。UBOチェックは、最終的に誰が金銭を得るのかをチェックし、そのような組織に資金が流出することを防ぐものです。


デューデリジェンスとは

デューデリジェンス(Due Diligence)とは、マネーロンダリングが行われるリスクはないか、関わりのある組織や人などを徹底的に調査することを指します。また、取引を控えたほうがいい組織や人についても把握します。


ビジネスデューデリジェンスと言うと、M&Aなどの際、相手の企業の財務状況を調べ上げることを意味する言葉として使われることもあります。その一方でマネーロンダリング対策としてのデューデリジェンスとは、疑わしい取引が発生することを防止するための調査として用いられることの多い言葉です。英語の頭文字をとって「DD」と呼ばれることもあります。


スクリーニングとは

マネーロンダリングのリスクがないかどうか調査をした後も、M&Aなどによって複数の企業が1つになったり、事業内容に変化が生じたりするケースがあります。


スクリーニングとは、デューデリジェンスをはじめとする調査を行い、リスクがないと判断した後も、定期的に実施する対策です。企業の実態を把握し、マネーロンダリングのリスクを減らす必要があります。


BSA報告の要件


銀行秘密法(BSA)は、マネーロンダリングに使われるリスクのある疑わしい取引について、金融機関からの報告を求めるものです。銀行秘密法を守るために重要な要件として、以下の4つが挙げられています。


・不審な活動報告(SAR):金融機関が不審な取引に気付いてから30日以内に報告書を作成する必要があります


・外国銀行口座レポート(FBAR):個人がアメリカの国外で銀行口座や金融商品を保有している時にレポートを作成する必要があります


・通貨取引報告(CTR):顧客の銀行口座の預金額もしくは引き出し額が一定の金額を超えた時に報告書を作成する必要があります


・通貨または通貨代替物の国際移送に関する報告(CMIR):顧客から別の顧客へ一定以上の金額をやりとりする際に報告書を作成する必要があります


AMLの仕事と認定資格

マネーロンダリング対策の取り組みは、財務や法務、コンプライアンス、ITなど、さまざまな部門で行われています。アメリカでは、マネーロンダリング対策の仕事を行うために以下のプログラムや資格が設けられています。


・マネーロンダリング対策(AML)トレーニング


・CAMS認定資格


・個人向けACAMS会員資格


・法人向けACAMS会員資格


「マネーロンダリング対策(AML)トレーニング」とは、生命保険の販売システムなどの研究を行う団体であるLIMRA(Life Insurance Marketing and Research Association)によって行われる取り組みです。マネーロンダリング対策を行おうとする多くの個人や従業員などがこのトレーニングを修了しています。


ACAMS(Association of Certified Anti-Money Laundering Specialists)は金融犯罪の対策を行う専門家のための会員制の組織です。学習して試験を受けることで取得できる認定試験のほか、登録によってコミュニティの一員となる「個人向けACAMS会員資格」「法人向けACAMS会員資格」があります。


参照:


Anti-Money Laundering(AML)Training


CAMS認定資格


金融犯罪防止を専門とする世界最大の会員制組織です。


AMLコンプライアンスの問題

マネーロンダリングのリスクが高い国や、コンプライアンスの順守が難しい国との取引は、金融機関が制限を設けることがあります。しかし、マネーロンダリングは国際的な犯罪であるため、限定的な地域でルールが設けられても、金融機関がそのルールを守り続けるのが困難になるという問題を抱えています。


マネーロンダリングのリスクを検出するための助けとなるのがAIやRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)です。リスクが高い事例を見つけたり、顧客の行動の変化を検出したりすることで、金融機関が顧客の動向を確認するためのサポートを行います。


AIやRPAによる調査はまだ完璧ではないため、問題のない口座や取引を誤って報告してしまうこともあります。しかし、システムが改善されていくにつれ、今後はより効果的にマネーロンダリング対策を行うことができると考えられています。金融機関がマネーロンダリング対策に関するルールを遵守しやすくなり、より問題に取り組みやすくなるでしょう。


マネーロンダリングリスクの評価方法

企業活動においては、マネーロンダリングが発生するリスクや、発生した際に生じるリスクについて把握する必要があります。


金融庁が作成した「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」は、マネーロンダリング対策についてわかりやすくまとめられた資料です。ホームページより誰でも閲覧することができるので、マネーロンダリング対策に携わる際は、目を通しておくといいでしょう。


資料では、マネーロンダリングやテロ組織への資金供与が発生するリスクを特定・評価し、リスクに応じた対策を行う「リスク・ベースドアプローチ」と呼ばれる評価方法についてまとめられています。


参照:金融機関におけるマネロン・テロ資金供与・拡散金融対策について


【まとめ】

マネーロンダリングは年々手口が巧妙化する傾向にあり、一般の企業や個人が巻き込まれてしまう可能性も大いにあります。近年では仮想通貨などのサービスを利用したマネーロンダリングが発生しているため、新しい情報を得ながら、その時の状況に応じた対策を行うことが求められています。


健全な企業活動を行うためには、取引によって生じるリスクを認識して、対策を進めていくことが大切です。マネーロンダリングやテロ組織への資金供与に手を貸すことのないよう、十分な注意を払いましょう。


 


【執筆者】ニッキンONLINE編集部


 

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