リスキリングとは?意味やメリット・導入時のポイントについて解説!

2023.11.20 14:52
人材育成
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リスキリング

リスキリングは世界的に企業・個人の両方から取り組みが進められています。必要とは聞いていても、具体的にリスキリングとはどのような取り組みなのかが判然としなくて指針を立てられないことはよくあります。この記事ではリスキリングの意味と類似しているコンセプトとの違いをまとめました。リスキリングを導入するときの注意点や、導入の流れも解説します。人材価値を高めるために必要なのでリスキリングの取り組みを始めましょう。


 

リスキリングとは?

リスキリングとは新しい仕事に対応するために必要なスキルを習得すること、あるいはスキル獲得をさせることです。もともとスキルを持って職務を全うしていた人も企業の成長やビジネスモデルの変化に伴って、自分のスキルが十分なものではなくなることがあります。新しい職種で活躍する、今の職種で新しいスキルを生かして活躍するといった目的でリスキリングの取り組みが進められています。


リスキリングの目的は新しい仕事に取り組める能力を育み、人材価値を高めることです。アップスキリングをして今よりも高度なスキルで仕事に携われるようにする取り組みとは区別されます。今まで持っていなかったスキルを習得して、人材としての付加価値を再開発し、新しいスキルセットを生かして働けるようにするのが基本概念です。


リスキリングではアウトスキリングやスキルチェンジをすることが含まれます。ただ、リスキリングは既存スキルと組み合わせて価値創出を目指す意味合いが強い表現です。


リスキリングが注目されている理由


リスキリングは世界的に注目されています。リスキリングの取り組みが活発になってきた時代背景から理由を解説します。


DXの推進によるビジネスモデルの変化

DX(デジタルトランスフォーメーション)はリスキリングの必要性を高めています。経済産業省の推進するDXは、企業が競争優位性を獲得するためにデジタル技術を活用するというコンセプトで打ち出されています。デジタル技術やデータ活用にはITスキルが必要で、近年ではAI(人工知能)やDL(深層学習)などの技術も登場してきました。


AIやITシステムを活用して新しいビジネスを創出する試みも活発におこなわれるようになりました。経済産業省では画期的なDXの取り組みをしている企業をDX銘柄として毎年選定していて、企業価値を高める手段としてもDXが注目されています。ビジネスモデルの革新を進める役割が求められるようになり、DXにつながる最新の技術を生かせるスキル習得が求められています。


働き方の変化

リモートワークを代表とする働き方の変化も、リスキリングが注目されるようになった理由です。企業が求める働き方に対応できるスキルや、自分が希望する働き方で十分に能力を発揮できるスキルが必要になっています。コロナ禍の影響を受けてリモートワークが取り入れられ、顧客対応もビデオ通話を使用することが多くなりました。このような技術を最大限に活用できるスキルの習得が必要になっています。


また、少子高齢化社会になって労働力不足が社会課題になり、業務効率化の取り組みが必須になりました。自動化のシステムを運用したり、ロボットを使用したりするスキルが要求される時代になっているのもリスキリングが必要な理由です。


人的資本経営へのシフト

ビジネスモデルが変わると人材戦略も必然的に変化します。人材を「資本」として捉える人的資本経営による経営戦略に切り替える企業が多くなりました。人材がもたらす付加価値を伸ばすことで企業価値を高めるという経営のあり方です。技術大国として成功してきた日本は、資源国ではないので価値を創出するビジネスを中心に置く必要があります。


企業価値を創出・発展させる源泉になる人材の開発を進めるためにリスキリングに取り組む企業が増えています。人的資本経営を従業員にマッチした形で進めるとエンゲージメントの向上も可能です。岸田内閣によるリスキリング支援が進められている影響も受けて、従業員の自発的な成長を促す施策が注目されています。


参照:人的資本経営 ~人材の価値を最大限に引き出す~ (METI/経済産業省)


リスキリングとリカレント教育、アンラーニングとの違い

リスキリングはリカレント教育やアンラーニングとは違う概念です。ここでは区別のためにリカレント教育とアンラーニングについて紹介します。


リカレント教育

リカレント教育は「働く」と「学ぶ」のそれぞれに注力する期間を取り、サイクルを繰り返すことで人材価値を高めることを指します。新しいことを学ぶために一度現場を離れるのが基本ですが、リスキリングでは業務から離れずにスキル習得を目指す点が違いです。


例えば、リカレント教育では修士号を持つ人が大学院の博士課程で3年間学び、新しい職場を見つけて活躍するといった方法があります。リカレント教育では個人主体で学びたいことを軸にして進められているのに対して、リスキリングでは企業主体で推進されているのも異なっています。


アンラーニング

アンラーニングとは今まで学んできたあり方を一度リセットして、新しい方法で再スタートすることを指します。効率的で当然と考えてきたスキルの使い方や業務フローを忘れて、新しいやり方を取り入れていくのがアンラーニングの基本概念です。学習棄却とも呼ばれる方法で、より良いものを取り入れるために、不要なものを積極的に忘れるという意味合いがあります。


リスキリングではアンラーニングをしません。今までのスキルも生かしつつ、新たに獲得したスキルを組み合わせて価値を生み出します。価値の創出のためにスキルセットを整えるのがリスキリングです。


リスキリングを行うメリット


リスキリングは現代企業が目まぐるしく進展する時代に追いついていくために欠かせません。ここではリスキリングに取り組むメリットを紹介します。


業務効率化

リスキリングはDXなどを通して業務効率化につながるのがメリットです。データ管理を一元化したり、ルーチンワークを自動化したりするなど、さまざまな形での業務効率化ができます。新しい技術を取り入れることで業務の効率を上げるだけでなく、正確性も上げられる可能性があります。


リスキリングは従業員の業務負担が軽減されることで時間外労働の軽減も実現できる取り組みです。従業員に仕事の余裕が生まれると、自分のスキルセットをどのように生かすかを考える余裕ができます。企業にとって新しい価値を創出するアイデアを出せるようになる可能性もあります。


自律的なキャリア形成

企業としてリスキリングの機会を提供することで、従業員が自律的に自分自身のキャリア形成に取り組むようになります。リスキリングは従業員自身の付加価値になるからです。組織の中での自分の立場や将来のあり方を考え、必要なスキルを選んでリスキリングを進める文化を醸成すると、自然に人的資本の価値が向上していきます。


現場で働いている従業員は、目の前で何が必要なのかをよう理解しています。「このスキルがあれば活躍できる」と考えられるスキルを探し、自ら学んでキャリア形成をする仕組みを整えられるのがリスキリングを推進するメリットです。


エンゲージメント向上・離職率低下

リスキリングは学んでもっと活躍したいという従業員のエンゲージメントを高める施策になります。自分が新しいスキルを習得することで、企業から求められる業務で力を発揮できるのは学ぶモチベーションになるからです。習得したスキルを生かす職務を与えられれば成果が出て、さらに働きがいを感じられるようになります。


リスキリングは離職率の低下ももたらします。今後のキャリアや企業成長に不安を持っている人が、自ら成長する機会になるからです。エンゲージメントの向上を通して仕事の充実感を得ると、さらに貢献する意欲を持ってもらえるようになるメリットもあります。


自律型人材を育成できる

企業が率先してリスキリングを推進することで自律型人材が育っていきます。自律をして企業にとってどんなスキルを持っている人材が必要なのかを考え、自分が担える可能性を追求してリスキリングに取り組む企業文化ができるからです。自分のスキルセットを考えて適材ではないと思ったときには、適している人を抜擢してリスキリングに推薦する動きも生まれてきます。


エンゲージメントが高い自律型人材が育成されると組織としての成長が促されます。今後の企業価値向上につながる人的資本が増えるのがリスキリングを進めるメリットです。


リスキリング導入のステップ

リスキリングは計画的に導入することが必要です。ここではリスキリング導入の流れを解説します。


目的と必要なスキルの具体化

リスキリングでは導入目的を明確化し、人材に求められるスキルを具体化する事前準備が必要です。人的資本経営による経営・人材戦略を検討し、事業計画に合わせて人材に求められるスキルを定義しましょう。現状と理想のギャップを埋めるスキルが何かを明らかにし、リスキリングの方針を作る下準備をします。自社の人材ポートフォリオや過去の業績、競合企業におけるリスキリングの状況を加味して要求度の高いスキルを具体化することが大切です。


計画とプログラムの策定

次に、リスキリングの計画を立ててプログラムを策定します。リスキリングでは自社プログラムでの学習、外部研修、社会人大学などの選択肢があります。学習方法もeラーニングなどのオンライン学習とハンズオンの対面学習があり、併用することも可能です。経営計画や事業戦略に基づいていつまでにどのようなプログラムでリスキリングを進めるのかを検討します。教材の開発や講師の手配が必要な場合には取引先を探して計画を作り上げます。


リスキリングに取り組む企業文化の育成

リスキリングの計画を実行する上で重要なのが従業員の意識です。リスキリングに取り組む企業文化を醸成することを前提として、従業員育成を並行して始めましょう。従業員にとってリスキリングがベネフィットになる制度を整えたり、考査のタイミングでスキル習得をして活躍して欲しいことを伝えたりして刺激する方法が効果的です。就業時間内にリスキリングに取り組める環境を用意して、意欲を引き出すことも重要になります。


習得したスキルの活用機会の提供

スキルを獲得した従業員に活躍の機会を与えることは欠かせません。リスキリングをして企業に新しい価値を生み出し、自分の存在意義を高められたという実感があると帰属意識もエンゲージメントも高まるのは明らかです。実践的にスキルを生かせた実感を持つと、従業員間のコミュニケーションで横展開が自然に発生します。刺激を受けた従業員がリスキリングに取り組み、また他の従業員に魅力を伝えるサイクルを作り上げると企業文化も醸成できます。


リスキリングを導入する際のポイント・注意点

リスキリングを導入するときには、メリットを最大化するための取り組みをすることが重要です。ここでは導入時に押さえておきたいポイントと注意点を紹介します。


企業が主体となってリスキリングの機会を作る

リスキリングの導入では企業が主体になり、経営戦略や事業戦略を達成する目的で従業員を支援することが大切です。従業員にリスキリングの意欲があったとしても機会が与えられないとアクションを起こせないことはよくあります。経営側としてリスキリングを推進するスタンスを示し、制度的にも支援を推進して機会を提供することが大切です。企業が主体となることで帰属意識を高めることができ、リスキリングした従業員を定着させられます。


従業員の主体性を引き出す

従業員にリスキリングを強要するとストレスになるため効果が上がりません。従業員エンゲージメントを向上させることも重視して、リスキリングを主体的に希望して進める制度を整えることが大切です。本人のためになると企業側や上司が考えても、喜ばれるとは限らないので注意が必要です。本人がどのような方向性で自分自身の価値を向上させてキャリア形成をしたいかをヒアリングして、マッチするリスキリングの機会を与えましょう。


リスキリングによるベネフィットを設ける

自発的なリスキリングを促すには取り組むベネフィットを明確にすることが重要です。従業員がスキルを身に付けると本人の人材価値が高まるので、給与や手当に反映されるとインセンティブになります。人材評価制度を見直してリスキリングに取り組むモチベーションを引き上げることが大切です。就業規則にリスキリングは業務時間に加味することを明記するなど、当然のようにリスキリングに取り組む企業としての制度整備も進めましょう。


費用も加味して継続可能な仕組みを整える

リスキリングは導入後も継続的に運用することが不可欠です。短期でリスキリング計画を立てることもできますが、企業が持続的に価値創造を続けるには人材育成が欠かせません。リスキリングの自社プログラムの実行や外部プログラムの支援にかかる費用も加味して持続可能な仕組みを整えることが大切です。従業員同士がリスキリングについてコミュニティを用意し、互いに刺激し合いながら切磋琢磨できる環境を整備するとリスキリングの意識が広がって取り組みが継続しやすくなります。


リスキリングの導入事例

リスキリングの導入が各企業で積極的に進められています。ここでは代表的なリスキリングの取り組みを紹介します。


アクセンチュア

アクセンチュアでは、リスキリングのためのキャリアチェンジ採用を積極的に実施して人材を育て上げる方針を立てています。IT未経験、社会人未経験でも採用を進めて、意欲のある人材をリスキリングしているのが特徴です。このノウハウを用いて、アクセンチュアではタレント・ディスカバリー・プログラムによる積極的な変革の人材の創出のためのリスキリングサービスや、女性のためのリスキルプログラムの提供も進めて、他社への影響力も高めています。


参照:


キャリアチェンジ採用情報 | アクセンチュア


リスキリング | アクセンチュア


日立グループ

日立グループでは、グループ会社の日立アカデミーを通してリスキリングの取り組みを進めています。2022年にグループ社員向けに学習体験プラットフォームの「Degreed」を導入しました。株式会社ディーシェのプラットフォームを導入し、リスキリングとアップスキリングのための「学びの支援」を提供する体制を整えました。日立グループで推進するジョブ型人財マネジメントを支え、キャリアもスキルも主体的に作る文化を構築しています。


参照:


自分のキャリアを自分でつくる。 学びをもっと身近に、LXPによる新しい学習体験。:日立アカデミー


Degreed(LXP)導入事例:日立アカデミー様 | disce


あおぞら銀行

あおぞら銀行では新中期計画戦略「AOZORA2025」の中でDX推進を掲げ、人的資本投資を推進することを掲げて取り組んでいます。デジタル人材育成プログラム、キャリアコース転換制度、能力開発支援プログラムなどの多様な支援プログラムを用意し、シニア層でもプロアクティブキャリア研修などを受けられる体制を整えました。あおぞら銀行では主体的なリスキリングの支援を徹底して進めることで、価値創造を支えて持続可能な企業への成長を目指しています。


参照:人材戦略 | あおぞら銀行


ダイキン

ダイキンではダイキン情報技術大学を設立してデジタル人材の育成に主眼を置いたリスキリング体制を整えています。新入社員から役員まで幅広く学べる講座を用意し、初期教育から計画的に実施してきています。ダイキン情報技術大学では特に時流に乗ったAI/IoT人材の育成にフォーカスしています。2017年に設立してから1,500人の人材を輩出することを目的としたリスキリング計画で、大阪大学との提携によって2年間学べるようにしているのが特徴です。


参照:ダイキンのDX人材育成|ダイキン工業(株)情報技術大学 事務局


 


【まとめ】


リスキリングは企業価値を支える人的資本の付加価値を伸ばすために欠かせない取り組みです。DXによるビジネスモデルや働き方の変化によって、従業員のリスキリングに企業が積極的に乗り出す必要性が高まっています。リスキリングによって活躍しようと従業員が主体的に考える文化を醸成し、自律型人材が育つ企業を築き上げましょう。企業が主体となってリスキリングを推進することが大切です。リスキリングを全社で継続できる仕組みを整えて計画的に取り組むことが成功につながります。


 


 


【執筆者】ニッキンONLINE編集部


 


 

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