【推薦図書】『ラディカル・マーケット脱・私有財産の世紀』(エリック・ボズナー、グレン・ワイル著)
2023.11.17 04:30
【推薦者】野村証券副社長・鳥海智絵氏
「ラディカル」=「根本的・徹底的」
長く証券業界で過ごすと、現状の枠組みを前提に「市場は正しい」と思う癖がつく。しかし本書は「市場に任せて生じた寡占や独占が、競争を阻害するなどの弊害を生むこともある」と指摘、「ラディカル」な解決案を次々提案する。
なかでも第4章「機関投資家による支配を解く」は、興味深い。
米国の反トラスト法は、企業同士が水平に結合して、競争しなくなるのを防いでいるが、上場企業においては、誰でも市場を通じて株式(支配権)を手に入れることができる。
そして一握りの機関投資家が、寡占化の進む産業内の競合企業同士の株式を大きな割合で保有すれば、水平結合と同様の効果が生まれる。なぜなら、投資家は競争をさせずに現状の利益を享受すれば足りるからだ。こうして企業はイノベーションに投資しなくなる。
S&P500採用企業の90%以上の筆頭株主がインデックスファンドとなっている米国で、こうした事態を避けるため、寡占状態の産業においては「投資家は、(各企業の)1%以上は保有できない」ルールを導入すべきだ、との提案は実に「ラディカル」である。
日本では、日本銀行が保有するETFの議決権行使が話題になるが、本書はその功罪を改めて考えるきっかけになるのではなかろうか。
(東洋経済新報社、税込み3520円)
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