苦情に学べ 高齢者の「つもり」防ぐ説明を
2023.11.04 04:30
今回から、個別事案に係る苦情から学べることを見てみたい。第1回のキーワードは「外貨建て」である。昨今、リスク性商品に関する記事によく出てくる言葉の一つだ。
実際、2023年度第1四半期に全国銀行協会が公表しているあっせん事案も、外貨建ての事例となっている。
外貨建てのリスク性商品に係る苦情とは、どのような事例があるのだろう。20年2月20日公表の国民生活センターによる事例では、外貨建てリスク性商品に係る典型例が紹介されている。
「定期預金をしたつもりが、外貨建て変額個人年金保険に加入していた」――。資料によると、定期預金を申し込んだのち、金融機関担当者から書類が間違っていたとの連絡で書き直した。その際に「定期預金だと思いこみ書類等をよく見ることなく保管していた」とのことである。このケースは、金融機関側が顧客との信頼関係を利用し、外貨建て変額個人年金保険を十分に説明せず担当者が契約させたと推定される。当然、この点は問題だがこの苦情から学べることは何か。
一つは「定期預金だと思いこみ」の部分である。事例の顧客は高齢者である。人間は、一度でも思い込んだら、思い込みをすぐに変えることが難しい。特に高齢者は、その傾向が強いと言われている。高齢者へのリスク性商品の販売に際しては、より丁寧かつ時間をかけ、当初思っていた内容と異なる場合には、より時間と手間をかける必要があることを認識しなければならない。
次に「書類等をよく見ることなく保管」である。年を重ねれば重ねるほど文字、特に細かい文字は読みたいと思わない傾向がある。つまり、高齢者にリスク性商品を販売し「これを読んでおいてください」では、販売者としての責務を十二分に果たしたことにならないとも言われかねない。仮に契約が成立した場合には、契約証券などの書類を原則、販売者自ら説明する必要があると絶対に意識することが必要である。こうしたリスク性商品の販売対象となっている顧客のほとんどがいわゆる高齢者である。
当然ながら、顧客の属性・特性を踏まえて販売するのは当然として、一般的に高齢者に共通する思考などの傾向も把握しておけば、苦情発生を防ぐ一助になるのではないか。
【金融監査コンプライアンス研究所代表取締役・宇佐美 豊氏】
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