Nikkin金融講座 金融入門(3)金融の歴史をフラッシュバック(2)
2023.10.20 04:01
狂騒のバブルから暗転
日本は戦後、金融システムを抜本的に再編しました。そのモデルとなったのが米国です。金融庁は金融関連の法律を整備する際、民間有識者を集めた金融審議会で徹底的に議論しますが、今でも米国を含む主要先進国の研究がその第一歩となります。それゆえ「米国の模倣ばかり」と揶揄されることもありますが、今の金融市場の源流を探っていくと大恐慌に苦しんだ1930年代の米国に行き着きます。
世界恐慌の端緒とされる1929年10月24日は木曜日でした。そのため、米国ニューヨーク株式市場の大暴落は「暗黒の木曜日」と呼ばれています。さらに翌週も「暗黒の月曜日」と「暗黒の火曜日」と称される暴落があり、ダウ平均株価は2日連続で10%超の下落を記録しました。ダウ平均は1929年9月の高値から、3年後には約10分の1に下落。再び高値水準に戻すまでに約25年を要しました。
それほど景気循環の谷が深かったのは、直前の1920年代に米国で「ローリング・トゥエンティ―ズ(狂騒の20年代)」と呼ばれるバブルがあったからです。バブル発生の素地の一つが、1913年の中央銀行(米連邦準備制度理事会)の設立です。金融政策はオールマイティだと認識され、循環的な不況はもう起きないと考えられていました。
米国は90年前に大改革
バブル崩壊後は当然、金融界にも厳しい目が向けられました。1932年から大暴落の原因究明のために上院の銀行・通貨委員会が開かれ、ウォール街の大物たちが聴聞会に呼ばれました。なかでも、証券市場調査のために設置された小委員会(通称:ペコラ委員会)ではウォール街の不正行為が暴かれました。その結果、1933年に銀行業務と証券業務の分離を定めたグラス・スティーガル法が成立。当時最大手のモルガン商会はJPモルガン銀行とモルガン・スタンレー証券に分離しました。
グラス・スティーガル法では、米連邦預金保険公社(FDIC)の設立も定められました。銀行が破綻しても預金を一定額まで保護する預金保険制度を運営する組織です。日本では1971年、FDICをモデルに預金保険機構が設立されています。
証券分野では、1933年に証券法が成立し、証券の発行企業に財務内容の開示が義務付けられました。翌34年には証券取引所法が制定され、証券取引委員会(SEC)が設立されます。証券取引業者はすべてSECへの登録が必要になり、国の監視下に入ることになったのです。SECにならった日本の証券取引等監視委員会も、バブル崩壊後の1992年に発足しています。いつの時代もバブル崩壊の痛みは甚大ですが、金融システム改革を断行するには最も適した時期であるとも言えます。
ドイツが「タカ派」のワケ
しかし、米国の銀証分離は1999年に撤廃され、のちに2008年のリーマン危機を招いたと批判を受けました。その反省から、2010年成立のドッド・フランク法では、ボルカ―ルール(銀行の市場取引規制ルール)が適用されました。欧州では銀行業と証券業の併営を認めるユニバーサル・バンク制度が伝統的に主流であり、米国がこだわる銀証分離は大恐慌以来のトラウマなのかもしれません。
ちなみに、欧州経済を牽引(けんいん)するドイツのトラウマは、1920年代のハイパーインフレです。第一次世界大戦後、財政赤字を埋めるための紙幣増刷が原因でした。マルクのポンド相場は、1921年10月の1ポンド=712マルクから、23年11月には1ポンド=20兆マルクに下落しました。この時の庶民の生活苦がナチス台頭につながったこともあり、ドイツ連邦銀行(中央銀行)は伝統的にガチガチの「タカ派」です。
では日本のトラウマは何でしょうか。それはやはり戦前・戦中の軍部の暴走と、戦後の不動産バブル崩壊でしょう。戦後復興期は10年間でしたが、バブル崩壊後は「失われた30年」とも表現されます。その長い期間を経て、我々は再びバブルの教訓を生かせる時代の入り口に立っているのかもしれません。
日本金融通信社編集局 国定直雅
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