金融法務ドクター養成 金融法務①「 事業再生ADR」 

2021.04.02 05:00
金融法務
メール 印刷 Facebook X LINE はてなブックマーク

Q:事業再生ADRについて教えてください。


A:事業再生ADR制度は、民間主体の事業再生環境を整備するべく創設された制度で(産業活力再生特別措置法等を根拠とします)、事業再生の専門家が、中立的立場から債務者(過剰債務を抱える企業)と債権者(主に金融債権者)間の調整を行うこと等により、事業再生の円滑化を図ることを目的としています。


【解説】事業再生ADRは、会社更生や民事再生等の法的手続によらない企業の事業再生のための私的整理手続のうち、ADR法や産業競争力強化法等に基づき制度化された準則型私的整理手続であり、事業再生に通じた弁護士・公認会計士から選任された手続実施者が関与して進められます。


対象債務者としては事業を行う者であれば制限は無く、対象債権者は金融機関・保証協会・サービサー等の金融債権者が想定されています。


具体的手続としては、民間団体の事業再生実務家協会(「JATP」)主宰のもと、まず、対象債務者が、経営困難となった理由・事業再生策・弁済計画等を内容とする事業再生計画案を作成します。つぎに、事業再生計画案の適法性や合理性についての手続実施者の調査を受け、3回の債権者会議及び期日間の面談等により対象債権者と協議を行い、事業再生計画を成立させます。もっとも、成立には、対象債権者全員の同意を要します。


事業再生ADR制度では、法的整理(民事再生手続・会社更生手続)及び(純粋な)私的整理の両者のメリットが融合しており、具体的には、原則として、金融債権者(金融機関等)との間で調整を進める手続であるため商取引債権者等(取引先等)と従来通りの取引継続が可能であること、手続中の一時的な資金繰りのための融資に対する債務保証制度、特定調停に移行した場合、事業再生ADR手続が実施されていたことを考慮して裁判官だけで調停することの相当性が裁判所によって判断されること、債務者企業の債務免除益・債権放棄の無税償却といった税制上の優遇措置をうけられること、法的整理手続と異なり手続公表義務が無いこと、等が挙げられます。


従来、事業再生ADRの利用数は多くはありませんでしたが、コロナ禍が長期化することにより、突発的な資金繰りの悪化を超えて金融機関からの融資を受けることが出来なくなった大規模中小企業や上場企業による利用数の増加が予想されます。


松尾綜合法律事務所弁護士 前里康平

すべての記事は有料会員で!
無料会員に登録いただけますと1ヵ⽉間無料で有料会員向け記事がご覧いただけます。

有料会員の申し込み 無料会員でのご登録
メール 印刷 Facebook X LINE はてなブックマーク

関連キーワード

金融法務

おすすめ

アクセスランキング(過去1週間)