
近年、みずほフィナンシャルグループ、横浜銀行グループなどの金融機関を始めとして、現役世代の退職者を貴重な社外資本とみなして「アルムナイ」と呼び、関係の維持、構築に取り組む企業が急増している。シリーズ「#金融機関に広がる「アルムナイ」~退職者は社外の人的資本~」では、アルムナイについての考え方や関係構築の方法、企業とアルムナイそれぞれにとってのメリット、人的資本経営が広がる中で注目される理由などを解説する。
アルムナイとは
アルムナイとは、従来は学校の卒業生や出身者を意味する言葉でした。しかし近年、大手企業を中心に、自社の退職者を貴重な資産と捉えて「アルムナイ」と呼び、学校と同じように卒業後も繋がりを継続する考え方として広がっています。
企業は、採用するために転職エージェントに高額の費用を支払ったり、社員に活躍してもらえるようエンゲージメントサーベイを実施したり評価制度や配置を工夫したりと、人材に対して様々な投資をしています。にもかかわらず従来は退職したら縁が切れてしまい、その投資が無駄になっていました。
しかし、昨今人材の流動性が高まり多くの企業において退職者が増える中、その損失が無視できないものとなりました。金融機関も例外ではなく、 地方銀行を中心に、これまでには退職しなかったような優秀な社員の退職が増えています。会社に強いネガティブな感情を持っているわけではなく、新たなステージを求めて退職することも多く、離職率を減らす取り組みにも限界があります。そのような中で、アルムナイと、新たな関係性を構築し価値に繋げる取り組みが大きく注目されています。
アルムナイと関係構築することで得られる価値
企業はアルムナイと関係を構築することで、以下のように様々な価値を創出することができます。
1.アルムナイ採用は教育・採用コストを低減
出戻り採用、カムバック採用など、様々な呼び方がありますが、一度退職したアルムナイの再入社を指します。アルムナイは社内外の両方の世界を経験しており、ミスマッチが発生しにくく、教育コストや採用コストも低いため、多くの企業がその採用に力を入れています。2022年に経団連がアルムナイ採用の有効性に言及したこともあり注目を集めました。
2.副業・業務委託で短期戦力化を実現
アルムナイに副業や業務委託の形で業務を依頼する形も増えています。副業や業務委託は、時間が限られているため、オンボーディングが困難ですが、アルムナイであれば短期での戦力化が期待できます。
3.採用ブランディングにも効果
活躍するアルムナイを可視化することで、採用ブランディングにつなげることも可能です。近年、就職活動する学生は、終身雇用を前提とせず、ある程度転職を見越して就職先を選ぶという方も増えています。実際、約7割の学生が「元従業員の退職後のキャリア」に関心ありと答えている調査結果もあります。

アルムナイが異なる業界や規模で活躍していることは、その企業に入れば人材としての市場価値が高まり、キャリアの可能性が広がるという強力なメッセージになります。
4.社員への好影響、離職率の低下へ
アルムナイが社員向けに講義をする、社員のメンターになるといった取り組みも増えています。アルムナイが、社外に出てみてわかった自社の良さや、前職での経験がどのように活きているかを話すことで、社員のエンゲージメント向上に繋がります。また、アルムナイに対して退職理由を聞くことで、退職後だからこそ話せる本音を引き出し、組織改善に活かして離職率低下に取り組んでいる企業もあります。
5.ビジネス協業で新たなビジネスを創造
アルムナイとの関係は、社外ビジネスネットワークにもなります。アルムナイが顧客になったり、アルムナイの転職した会社が協業先になったり、アルムナイが起業した会社に出資したりと、さまざまな事業価値に繋がっています。
このように、企業は退職と同時に縁を切るのではなく、退職後もアルムナイと関係を続けることで様々な価値を創出することができるのです。
次回は、価値を創出する方法として、アルムナイネットワークについて解説します。