
2024年8月に、信用金庫を対象とした次期リーダー候補をサポートする「わたしと組織のマインド改革プロジェクト」を始動。全国の信用金庫から選ばれた女性職員7人が、男女の職務分担へのバイアスや仕事と子育ての両立など女性活躍推進に関する現状の課題を洗い出し、解決に向けてそれぞれが動き出した。11月にはそれぞれの信用金庫で抱える課題とその解決策をまとめ理事長に提言した。
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プレミアム記事では、7人の女性職員が理事長に提案したもようを紹介している。シリーズ最終回は城北信用金庫採用研修部次長代理の前澤有美子さん。大前孝太郎理事長に理想の信用金庫実現に向け提言した。普段の控えめな様子からは想像できないほどに金庫の課題や解決策について力説した。
提言内容の一部始終は、プレミアム動画に掲載。
やりがいを感じ、働き続けやすい環境の実現
11月12日、大前孝太郎理事長を前に少し緊張した面持ちでプロジェクトの説明から話し始めた。前澤さんが考える理想の信用金庫は職員がいきいきとできる職場。「一人ひとりがいきいきと働くことができれば仕事に楽しさを感じるようになる」と。楽しさを感じることで「意欲的になりお客さまと仲良くなろうとコミュニケーションが活発化、より多くの情報を収集できる」とし、「お客さまに喜ばれ感謝されることで相乗効果が期待できる」と信用金庫が重要視するFace to Faceを起点とした“幸せの好循環”を提案した。一人ひとりがいきいきと働く状態を「やりがいを感じる仕事であることと、働き続けやすい職場環境が重要」と定義づけし、具体的な説明に入った。
やりがいを感じるには、お客さまや他の職員、地域の役に立っていることを実感するとともに、自身の将来キャリアについてイメージができることなどの要素が必要。一方、働き続けやすい環境とは、休暇が取りやすく、育児・介護との両立が無理なくできる状況で、周囲の理解が得られフォロー体制が構築できている状況をさす。お客さまから相談しやすい店舗として信頼を得られ、これまで以上に多くの情報が集まることで、個々のニーズや課題に合った提案ができるようになる。「お客さまに喜んでもらえることで、仕事の意義を感じるとともに、地域に貢献できていると実感しモチベーションが向上する」と語った。
前澤さんは、やりがいが感じられる仕事と働きやすい職場環境を実現する要因を図にまとめ、現状と照らし合わせた。やりがいについてはこれまでの施策により、仕事に対する面白さなどを感じられるようになったことが分かる。しかし、窓口業務をメインとするカスタマー総合職は、次長以上のロールモデルが少ないことから自身の将来のキャリアをイメージしにくいことや、営業や融資の経験が不足しているため総合職(営業)への転換に心理的不安がある現状も見える。
一方、働き続けやすい環境については、育休や短時間労働など制度は整っているがそのためには人員不足のカバーが必須となる。職員数の減少や短時間勤務者の増加への対応を営業店ごとに対応するには限界があるため、本部職員などによる助勤体制を進めているが、助勤対応できる本部職員も限られる。
配属チャレンジ制度の創設と助勤体制の強化
2つの視点から現状の課題をもとに改善策を提案。まず、総合職転換の心理的不安解消のため一定のスキルを身に着けたカスタマー総合職を対象に希望制で、1年間営業や融資を行なう総合職を経験できる『配属チャレンジ制度』を創設。営業や融資を経験したのち、総合職(営業)かカスタマー総合職か選択できる制度を提案した。「このチャレンジで大切なのは“期限終了後は自動的にカスタマー業務へ戻る”とすることで、もとの部署に戻ることを失敗ではなく新たな経験と捉えてもらいたい」と前向きに話した。
また、助勤体制の強化では、本部で助勤対応が可能な職員をあらかじめ募集し登録する。対象者はタレントマネジメントシステムを活用しスキルを可視化。要請のある業務のスキルを持った職員を派遣する。また、営業店業務を身に着ける目的で、一定期間営業店に派遣しスキルアップさせる。「営業店の困りごとを直接本部職員に伝えられ、タイムリーな営業店の声をキャッチすることも可能になる。」と相乗効果も提示した。
◇提案後のインタビュー骨子
ーー提案を受けた率直な感想は。
大前理事長:現状よりもさらに良いセールスやお客さまとのコミュニケーションなどをやってみたいと思う職員がでてくるのは良いことだと思います。希望者に機会を与える制度を作ることは大事なことなので、ぜひやりたいですね。ただ、仮にチャレンジした結果、前澤さんも話していましたが、カスタマー総合職に戻ったときに、周りから白い目でみられるようなことがあってはいけなので、そこの配慮も必要です。純粋にスキルを学ぶという目的で制度化するなど、多少の改良は必要だと思いますがぜひ実現したいです。
助勤体制は大事だが、問題は助勤する職員を増やすこと。現在、人事部に2人対応者がいて、コロナ禍でも要請に応じさまざまな店舗の対応をしてくれたことがあり頭が下がる思いです。この2人の職員はスキルが高く人柄も良いのですぐに順応できますが、そのような人材を集めるのは大変なことです。現在、リモート事務チームを導入していて、営業店の課長不在などに対し、本部の課長権限を持った職員が、モニター上で対応しています。人員不足に対して同時にDX化を進めることも大事だと思いますが、助勤体制の強化が必要であることは間違いないと思います。
ーー女性活躍推進に対する問題意識は。
大前理事長: 女性活躍推進とは“さまざまな分野の多様性”ということだと考えます。世の中が多様化する中で、業務ラインも多様化していくことに対して、男性、女性それぞれの適用性に合わせ活躍できる場を増やしていく必要があると考えています。女性が重たい渉外バックを持って集金するというのは、少し違うように思う。業務ラインの多様化で気を付けるのは、“逃げられる”ことです。一度手を上げてチャレンジしたら逃げることはできない、というのはよろしくない。出戻りOKとすることと、戻った職場で“あの子はダメだった”と思われないようにする必要があります。新しい業務につくということはプレッシャーを感じるものです。それを少しでも取り除くための配慮が課題だと思います。
ーー前澤さんが信金で叶えたい目標は。
前澤さん:まずは目の前の業務をしっかりとやっていきたいです。現状は本部にいるので営業店が働きやすい環境や、これまで以上にお客さまに良い提案ができるよう研修をどんどんブラッシュアップしていきたいと考えます。そのような積み重ねで、お客さまに選ばれる金融機関になるために貢献していきたいです。
◀熊本第一信用金庫