Vol.1 サステナビリティは金融機関の経営「必達」課題

公開日

2022/04/08

持続的な社会の実現に向けて金融機関が果たす役割


地域の持続的な発展に向けて、金融機関の「サステナブル経営」が果たす役割は大きい。一方、「地域の未来のため、SDGs(持続可能な開発目標)に取り組もう!」と言われても、何をすべきで、どこまでが本業なのかいまいちピンと来ない人は意外と多いのではないだろうか。公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)の国際経験が豊かな専門家が「持続的な社会の実現に向けて金融機関が果たす役割」をテーマにシリーズでサステナビリティ経営の本質を解説する。第1回目は、森尚樹ファイナンスタスクフォース プログラムディレクターがサステナブルファイナンスの基本理解を促す。



サステナビリティは金融機関の経営「必達」課題

サステナビリティとは経済だけではなく、環境・社会の観点からも世の中を持続的に発展させていく考え方を指します。気候変動、大気・水質汚染や自然損失などの環境問題、人権や貧困などの社会問題などが世界的に深刻化し、持続可能な社会への転換が求められる昨今、政府資金だけでは到底賄えず、民間資金の活用が不可欠です。
サステナブルファイナンスは、投融資の際にサステナビリティに配慮する手法であり、その目的は、社会をより持続的に発展していく形に転換していく活動に資金を振り向けていくことです。例えば、国連のSDGs(持続可能な開発目標)の達成だけでも、毎年500兆~800兆円の資金が必要といわれています。これは日本の年間GDP(国内総生産)を超える資金規模です。それを受けて、ESG投資、グリーンボンド、サステナビリティ・リンク・ローンなどの多様な手法や金融商品が急速に拡充しています。ブルームバーグによると、グリーンボンドなどのサステナブル関連のボンドやローンの国際市場規模は2020年で約100兆円に、しかも、2015年から比較するとその約10倍となっており急速に拡大しています。サステナビリティは事業会社や金融機関にとっても経営を左右する必達課題だと、お分かりいただけるのではないでしょうか?

サステナブルファイナンスは「流行語」ではない
サステナブルファイナンスの概念は、2007年に発生した、いわゆるリーマンショック以降、金融界を含め世界を揺るがすような危機を通じて顕在化してきたと考えられます。リーマンショックでは、金儲け至上主義、短期収益の偏重、社会格差の拡大といった問題が露呈し、責任ある消費などを重視する価値観が若い世代を中心に芽生えてきました。2019年には国連のグテーレス事務総長が気候変動は世界の脅威(気候危機)となっていると言明しました。気候変動は、異常気象、生態系破壊のみならず、経済混乱、食料・水の安全保障危機、紛争やテロなど人間の生命や社会に甚大な影響を及ぼす可能性があります。更に、2020年以降、新型コロナウイルス感染症は人命に脅威を与えるとともに社会のシステムや価値観を大きく変えています。感染症の発生は、肉食、持続可能でない農業、野生生物搾取などの過度な増加が原因であるともいわれています。

ビジネスは、自然環境の安定が前提です。自然はビジネスを含めた社会に対して、原材料、素材の提供、水、大気の調整、自然災害の緩和など多様なサービスを提供しています。世界経済フォーラムでは、世界のGDP(国内総生産)の半分以上(約44兆ドル)の経済的価値の創出が、自然資本に依存しているとしています。いくつもの危機に遭遇し、環境や社会の課題解決を経営の中心に据えなければ事業存続ができなくなるとの認識が浸透し、サステナブルファイナンスが注目されています。さて、具体的にはどういった環境課題があるのでしょうか?

次回からは、気候変動、脱炭素、生物多様性、資源循環など、持続可能な社会に向けた最新動向をキーワード別に解説します。その後、サステナブルな活動に資金を振り向けていくための方策に焦点をあて、サステナブルファイナンスの国際的動向とともに、サステナブルな活動の定義とその評価方法、投資家や金融機関の役割などについて取り上げていきます。


公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES=アイジェス)
環境・サステナビリティ領域に特化した政策研究機関。特にアジア太平洋地域における持続可能な開発の実現に向け、国際機関、各国政府、地方自治体、研究機関、企業、NGOなどと連携しながら、気候変動、SDGs、自然資源管理、持続可能な消費と生産、グリーン経済などの分野において政策研究およびプロジェクトを幅広く実施。金融については、グリーンボンド、サステナビリティ・リンク・ローンなど、サステナブルファイナンスに関する国際市場の動向や優良事例などの調査研究、政策提言に加えて、環境省が運営するグリーンファイナンスポータルにも情報を提供するなど活躍の場を広げている。(IGES公式サイト


 



プラス
 IGES公式プロフィール

森 尚樹

執筆者に質問しよう

記事名か執筆者名を入れて質問してください

質問する