第1回 金融マーケティングの要諦と、生成AIが及ぼす3大効果

公開日

2025/07/22

金融業界におけるマーケティングを「0から立ち上げた」執筆者が、生成AIを生かした展開について語る連載「生成AIが金融マーケティングにもたらすインパクト~デジタルマーケティングで毎月5,000件以上のお金の相談を集客する『マネーキャリア』が語るマーケティング戦略とは?」。第1回目は金融マーケティングの要諦と、生成AIが与える3大効果について紹介する。


 


1. いま金融機関が生成AIに注目すべき理由
生成AI(Generative AI:大量データを学習し文章・画像などを自動生成するAI)は、マーケティング機能の生産性を5〜15%引き上げる潜在力があるとされ、世界で年間4,630億ドル規模の価値を生むと試算されています。また、銀行セクターに限っても、McKinsey Global Institute は、年間2,000〜3,400億ドル(業界売上の約3~5%)の追加価値が生まれると見積もっています。参照:https://www.mckinsey.com/


保険代理店事業を行う当社でも、事業戦略からオペレーション、財務管理や人事まで、生成AIを幅広く活用しています。また、外部の保険会社や保険代理店に対して、ナレッジシェアをさせていただく機会も増えています。
今回は、その中でも特に生成AIとマーケティングというテーマで、記事の連載をさせていただくことになりました。


2. 金融業界のマーケティングの要諦
本題に入る前に、この業界に0から立ち上げた私個人の「金融業界のマーケティング観」をお伝えしたいと思います。


金融商材は、形のないサービスであると同時に、その価値が将来にわたって発現する「未来志向型」の性質を持ちます。とりわけ保険は、“自分ではなく誰かのため”に備える側面もあるため、利他的な動機付けが購買行動に強く影響する特殊な領域です。このような性質ゆえに、販売・訴求の設計は他業界と比べて格段に難易度が高いです。


また、金融マーケターは、自らが経験し得ない状況に向き合うことを求められる場面が多々あります。住宅ローン破綻後の心理、老後資金に関する漠然とした不安、がん罹患直後の行動変容――これらは、旅行や美容のように「自ら試す」ことが容易な商材とは異なり、当事者の感情や背景を“想像”によってしか捉えることができません。そのため、顧客一人ひとりの生活文脈をどれだけ具体的に理解できるかが、戦略設計の質を大きく左右します。


さらに、マーケティング対象が全世代に及ぶケースも多く、性別・年代・ライフステージ・居住エリアなど、非常に多様な条件を横断的に考慮する必要があります。地域金融機関であれば、地場の文化や経済環境といったローカル文脈が成約率に直結することも珍しくありません。


加えて、金融にまつわる不安や失敗体験は、そもそも顧客が言語化しづらく、他人に共有したくない性質を帯びています。つまり、従来型のヒアリング手法では、本質的なインサイトにたどり着けない可能性があると、私は考えています。


このように、金融のマーケティングは、「不可視のニーズ」を捉え、「多様な背景」に応じたアプローチを組み立て、「語られない本音」に寄り添うことが求められる、高度な思考と構造化力が問われる領域です。


3. 生成AIが変える金融マーケティングの3大テーマ
ここでは、私が考える、金融マーケティングに大きなインパクトを与える生成AIの可能性について語ります。
まず、生成AIは単なる「業務の効率化ツール」ではなく、マーケティングの発想・設計・実行の在り方そのものを変える存在です。当社のマーケティング組織では、その変化を以下の3つのテーマに整理しています。


① 顧客の解像度がぐっと上がる
金融マーケティングにおいて、最も難易度が高く、かつ本質的に重要なのが「顧客理解」です。従来のやり方ではアンケートやインタビュー、営業現場の経験知をもとに顧客像を組み立ててきましたが、スケーラビリティや更新頻度に限界があり、設計者の主観に依存しやすいという課題があります。
生成AIはこの領域において、精度・深さ・スピード・再現性の4つの観点で、これまでの手法を大きく上回る可能性を持っています。


 



※ 上記の資料は、マーケティング会議で喋った内容に対して、若干の補足を加えて、AIに加工・資料化してもらいました

 


 


特に大規模言語モデル(LLM)は、対話ログやチャット履歴、面談記録、クリック動線といった非構造データを統合的に解釈し、発言の背景にある心理や課題を構造的に捉えることが可能です。
たとえば1万件の相談履歴から「老後が不安」と記された場合、それが「教育費とのバランスに悩む人」か「収入が不安定で将来を描けない人」か、といった文脈を識別し、心理パターン別にクラスタ化できます。
また、属人化していたペルソナ設計やインサイト抽出も、AIが網羅的に学習・整理することで、組織的に再現可能な知見へと昇華されます。営業日誌やメモ、会議での口頭共有などの暗黙知も、自然言語のままAIに学習させることで、「成功パターン」や「失注理由」が起きやすい顧客とは誰なのか? を特定しやすくなります。
マネーキャリアでは、他業界からのマーケターの転職者が在籍していますが、誰でも同じ解像度で顧客を捉えられるよう、生成AIによる「顧客理解の共通基盤」を整備しました。数万件の相談データをベクトル化し、悩みの傾向や背景要因を分類・共有することで、戦略から実行まで一貫した解像度を保つ仕組みを構築しています。


 


② マーケティング戦略立案の高度化
従来、経験や勘に頼りがちなマーケティング戦略ですが、生成AIは自然言語ベースの大量の会話ログや行動データを分析し、潜在的な顧客ニーズや市場トレンドを浮かび上がらせます。また、戦略を可視化することによって、上長への承認作業の効率化やチームの理解度向上を実現でき、その観点で非常に価値が高いと思っています(こちらは、第2回の記事で詳細にまとめます)。


 



 


 


③ クリエイティブ制作とPDCAの高速化
広告文やバナー画像、LP(ランディングページ)の文案など、制作に時間がかかっていたクリエイティブ業務が生成AIにより劇的に効率化されます。また、複数パターンを即座に生成→配信→効果測定→再生成というサイクルも自動化できるため、高頻度のPDCAが回るようになります。マネーキャリアでは、過去の仮説検証の施策を全てドキュメントに整理し、それを学習させることにより確度の高い施策を行えるように工夫をしています。マーケティング組織の本質的な強みは、このPDCAのサイクルの速さにあると考えています。


第2回は、より具体的に、マネーキャリアのマーケティングチームの生成AIを活用した戦略立案・企画立案についてまとめます。


 


 



株式会社Wizleap
代表取締役 谷川 昌平 氏(タニカワ ショウヘイ)
岡山県出身。東京大学経済学部卒業。在学中に株式会社Wizleapを創業し、2023年に丸紅株式会社から増資、グループ会社に。
マネーキャリア、MCマーケットクラウド、MCエキスパートクラウド、金融事業者向けコンサルティング事業を展開。テレビ東京「ワールドビジネスサテライト(WBS)」、テレビ朝日「林修の今知りたいでしょ!」などメディアに出演。


 


 

水本 武志

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