
NTTデータ経営研究所の執筆陣が連載する「グローバル最先端の決済・金融動向レポート」の第5回。海外事例から学ぶ、地方銀行に求められる非対面融資モデルの刷新の必要性を通し、中小企業融資を再定義する。
中小企業向け融資から距離を置きつつある地方銀行
中小企業向け融資は、地方銀行にとって根幹をなす業務である。戦後には将来性のある企業に対する「経営者の人柄や地域での評判を重視した人物審査型の融資」や「返済能力を超えた信用に基づく資金提供」を通じて企業の成長を牽引し、我が国の高度経済成長を支えていたとも言える。
しかし、今となっては資本市場の要請(東証からのPBR改善要請など)からくる高い収益目標の影響を受け、地方銀行は中堅・大企業向けの大型融資やストラクチャードファイナンス(構造に何かしらの工夫がされた金融手法)に注力する一方、小粒になりがちな中小企業向け融資には消極的となる傾向がある。
非対面融資モデルの刷新と強化がカギ ~ 中小企業向け融資の収益性向上
過去より対面コストを費やさずにできる非対面融資にも挑戦してきた地方銀行も存在しているが、十分な成果にはつながっていない。そのため、案件単位では小粒ながらも、件数としては非常に多くの需要が想定される中小企業融資については獲得余地が大きく残されている。
非対面融資に成功できていない背景には、いくつかの構造的要因がある。第1に、財務諸表を軸にしたスコアリングモデルに過度に依存している点である。創業間もない企業や小規模事業者は信用情報が薄く、そもそも従来のスコアリングモデルでは正確に評価することが難しい。
第2に、顧客接点の設計が稚拙で、申込から契約までのユーザー体験(UX)が煩雑であった点も否めない。そしてなにより、第3に非対面融資の導入が部分的(単なる対面与信業務の省略版)であり、与信業務の抜本的見直しを伴っていなかったことが大きい。
以上を踏まえ、中小企業向け融資の収益性向上に向けた打ち手はやはり、非対面融資モデルの刷新と強化だと考える。その参考として、海外事例を研究していきたい。
海外事例から得られる示唆
海外ではまったく異なるアプローチで非対面融資が拡大している。モンゴルの「LendMN」、インドの「Razorpay」といったフィンテック企業は、顧客の決済データ、POS履歴、銀行口座の入出金データなどを通じて、日々の取引や売上実績をもとにリアルタイムで与信判断を行っている。これにより、「年次決算を基にした財務諸表による財務スコアリング」のみでは把握しきれなかった事業活動の実態を捉えることに成功している。
これらの事例が示唆するのは、非対面での与信業務の判断軸は「過去の財務諸表」だけではなく、「現在の取引データ」へとパラダイムシフトしているということである。そしてそれは、単なるテクノロジーの活用に留まらず、非対面融資モデルそのものの再設計を意味している。
地方銀行における勝ち筋
日本の地方銀行にとっても、中小企業向け非対面融資は大きなビジネスチャンスである。国内ではインボイス制度や電子帳簿保存法、クラウド会計の普及といった「データが流れる土壌」が整いつつあり、本部主導での効率的な与信体制を構築するための環境は整ってきている。対面での詳細なヒアリングを行わずとも、実態データを活用すれば迅速な判断が可能だ。
これらを踏まえた今後の地方銀行における勝ち筋は、現場行員の中堅・大企業向けの高度な提案活動による収益性の更なる向上と、新たな非対面融資モデルを用いた中小企業向けのスピーディなサービス提供による取引量の増加、と考えられる。
地銀が避けて通れない進化
地方銀行にとっては、地場の中小企業との接点は単に収益性では測れない価値も併せ持つ。非対面による効率化と、的確なデータに基づく与信判断が実現すれば、地方銀行は再び中小企業成長の伴走者として存在感を高められるはずだ。本部主導の体制整備と、現場行員による高度な営業活動――この役割分担を前提とした非対面融資モデルの刷新と強化は、地方銀行の経営戦略において避けて通れない進化である。今こそ、地域の企業と銀行の関係性を新たに定義し直すタイミングが来ている。
NTTデータ経営研究所
クロスインダストリーファイナンスコンサルティングユニット
マネージャー
仙波 真弥(せんば・しんや)
前職の三菱UFJ銀行では中堅中小、政府外郭団体、日系大企業までのあらゆる法人取引を経験。
大手メーカーにおける長期経営戦略策定PJの立上げや、一般事業法人の新規金融事業検討に対するサポートも実施。
また、研修企画、研修講師としての経験もあり、関係当事者とのコミュニケーションに重きを置いたプロジェクトワークに強みを有す。
2024年度より現職。金融を軸に戦略策定、実行支援のPJに従事。
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