取引先企業の本業支援が求められる中、金融機関の専担部署や営業担当者にはより高度なコンサルティング能力が求められている。本シリーズでは、金融機関の渉外向け研修や製造業へのコンサルで豊富な実績を持つエイシン・エスティー・ラボの山本諭代表が「製造業支援の第一歩~経営目線を養うコツ~」をテーマに経営支援の手法について紹介。第1回目は、知っているようで知らない企業の”5S”活動について解説する。


製造業の開拓
奥深いものづくりの世界を、知識のない外部の人間が理解するのは非常に難しいことです。いや、むしろ不可能。だからと言って全く情報がないまま製造業者のドアを叩くのはあまりにもナンセンス…。そこで本記事では、これから製造業を開拓していこうという金融機関の皆さんに、ものづくりの知識がなくても、一瞬で会社の良し悪しを判断できる “魔法の言葉” を伝授します。

その言葉は製造業に携わっている人なら誰でも知っている『ものづくりの基本の“キ”』。その言葉通りの活動が出来ている会社は、生産性が高く、トラブルが少なく、労働災害も少ない。まさに言うこと無し。そんな会社の業績は間違いなく良好で、従業員のモチベーションも高い。逆に、この活動が出来ていない企業は、生産性が低く、トラブルが多く、労働災害も多い…。そんな企業の業績が良いわけありません。

これだけのことをたった一言で表してしまう、そんな “魔法の言葉” が、これです。

5S活動


まさにマジック!・・・・。え?そんなの知っている?

確かに1度は耳にしたことがあるかもしれません。しかし、本記事では5S活動の基本的なところから、実際に工場で働いている人でも理解していない『本質』をお伝えするので、ぜひ最後まで読み進めて下さい。

まずは基本から。5S活動とは、5つの「S」である整理(SEIRI)、整頓(SEITON)、清掃(SEISOU)、清潔(SEIKETSU)、しつけ(SHITSUKE)――のことを言います。日本人なら誰でも知っているごくごく簡単な言葉です。

この言葉を聞いて、「あ~、要するに片付けろってことね(余裕)」と5Sを理解したつもりになっている人は、ド素人。5Sには、それぞれ独特の定義があります。それがこちらです。


整理:要るモノと要らないモノを分けて、要らないモノを捨てること
整頓:必要なモノを誰でもすぐに取り出せる状態にしておくこと
清掃:清掃しながら点検をすること
清潔:整理、整頓、清掃を続けられる仕組みをつくること
しつけ:自主的に5S活動が出来る人を育てること




表面的な言葉から一歩踏み込んだ内容となっています。ここまで知っていれば、もうド素人ではありません。上司に「整理しておいて」と言われたら、「どうやって片付けようか…」と悩む必要はなく、まずは要るモノと要らないモノを分けて、要らないモノを上司の許可を得て捨てればいいのです。言葉の定義が、会社内で共通言語として理解されていると、とてもスムーズにコミュニケーションが取れます。

さて、この定義を知っただけでは、まだ素人に毛が生えたようなものです。そして、実際に工場で働いている人も、このレベルの知識で止まっている人がほとんどです。このように5S活動が定着していない会社が多いため、顧客が工場見学をする際、見るべきポイントに5Sがあるのです。

5Sで一番大切なのは、整理です。そして実は一番理解されていないのも整理です。

モノで溢れている現場でよく作業者と交わす会話がこちらです。


「これ要らなくないですか?」と聞くと、
「要ります」と即答されます。
「でもホコリ被っていますよ?」
「確かに最近は使ってないけど、この機械を稼働する時にこれが必要なんですよ」

と、こんな会話になります。そうです。現場の人にとって、“要らないモノ” なんて無いのです。すべて要るモノ。これが整理できない一番の理由です。そこでもう一段 “要らないモノ” を深堀りします。


〝要らないモノ=今すぐには使わないモノ


これを理解していないと整理された現場には絶対になりません。今すぐ使わないものは現場には置かない。これを徹底することでモノが少ない整理された現場を作ることが出来ます。実際に作業する場所を始点にして、使う頻度が少なければ少ないほど保管場所を遠くへ移動していくのです。そして、1年以上使わないモノは思い切って捨てる(リサイクルする)。

ここまで読み進めて頂いた皆さんは、「現場がモノで溢れている=5S活動が出来ていない=業績が悪い」という方程式が成り立つことが理解できたと思います。

次回以降は、残りの4つのSについても紹介します。製造業の現場を見る目を養い、工場見学の際には卓越したものづくりの技術があるかどうかだけでなく、5Sの視点も企業評価の判断材料に加えてみて下さい。工場見学が今より楽しくなること間違いなし!です。


 


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山本 諭

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