
今回から12カ月にわたり「M&A diary~事例から読み解く成約の要点~」と題して、金融機関様のM&A支援をしている現役M&AアドバイザーからM&Aの現場で感じ・経験した事例を皆様にご案内していきます。第1回は、「金融機関が事業承継・M&A支援に取り組む意義」についてお伝えします。
昨今、多くの地域金融機関が事業承継・M&A支援に力を入れています。
帝国データバンクの全国企業「後継者不在率」動向調査(2022年)によると日本全国の後継者不在率は57.2%と約2社に1社は後継者問題を抱えている先であり、黒字での廃業を選択する企業があとを絶たない状況にあります。地域中小企業が後継者不足から廃業をしてしまうことは、地域経済の衰退に繋がり、ひいては金融機関自身の業績に大きく影響を与えるため、事業承継・M&A支援に注力をし、中小企業に廃業以外の選択肢を提案することは重要な業務であるといえます。また地域金融機関は経営者にとって身近で一番相談しやすい先であることも事実です。その地域金融機関が企業の後継者問題に踏み込むことで、様々な事業承継問題を解決する事に繋がります。
このような意義の他にも、事業承継・M&A支援は金融機関にとって多くのビジネスチャンスになります。
まずは、融資ニーズや既存融資先の融資残高確保があげられます。
M&Aでは買手企業が事業拡大をする為に企業買収を行うケースがほとんどです。その際に資金需要が発生する為、金融機関にとってM&Aの支援をする事は買手側の買収資金を融資するチャンスとなります。また、譲渡企業及び譲受企業が金融機関の取引先同士であれば、M&A実行後も譲渡企業に対する既存融資を継続できます。金融機関にとっては取引防衛も大切な業務のひとつですので、突然の融資全額返済や他行への借換えを防止する為にニーズの把握に力を入れる金融機関も少なくありません。
次にM&A支援に伴う新たな収益の柱の獲得が期待できます。
経営者に対してM&Aの実行支援をすることで手数料収入を得ることができ、新たな収益の柱として自らの収益基盤強化に繋がります。
最後にM&A支援を通じて経営者はまとまった資金を得られるケースが多く、事業承継問題の解決をサポートしてくれた金融機関で運用も含めた引退後のライフプラン相談をするケースも増えています。
このように後継者不在の企業が多数ある事は一方でビジネスチャンスが多く存在することでもあり、金融機関にとって事業承継問題に取り組む意義として、近年活発な動きを見せています。当社には金融機関様向けのM&A支援を専門としている部署がございます。今後の連載でいくつかの事例の紹介し、皆様に事業承継問題の解決を身近に感じてもらえたら幸いです。